「アップル、iPhoneに有機EL」─。

イラスト:Getty Images
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 2015年11月26日付の日本経済新聞朝刊の見出しに、衝撃が走った。有機ELを搭載する製品を米Apple社が2018年に発売する計画、という記事内容だ。

 「スマートフォンの基幹部品にパラダイムシフトが起こる」。そう直感させる出来事に、市場はすぐさま反応した。例えば有機EL材料を手掛ける保土谷化学工業の同日の株価は、前日の181円から231円に急騰、制限値幅の上限(ストップ高水準)の28%高となった。一方、液晶パネルが主力のジャパンディスプレイ(JDI)の株は一時前日比10%安まで売られた。

 スマホのディスプレーは、これまでずっと液晶が中心だった。世界で最も売れている「iPhone」をはじめ、ほとんどの製品に液晶ディスプレーが使われている。一方、有機ELディスプレーの採用は、韓国Samsung Electronics社の「Galaxy」のハイエンド機種や一部の中国スマホにとどまる。液晶に代わる次世代ディスプレーとして2000年ごろから期待を集めてきたが、液晶の牙城を崩せずにいた。

 しかし、iPhoneが有機ELを採用すれば、状況は一変する可能性が高い。iPhoneの販売台数が莫大な上に、iPhoneへの搭載をきっかけに、中国スマホなどにも有機ELの採用が広がる可能性が出てくるからだ。一部の中国スマホには既に有機ELが使われているが、「iPhoneが採用している部品」という“箔”が付くことで、各社がこぞって有機ELを使いたがるようになるだろう。

 ディスプレーの供給体制も大きく変わる。これまで韓国メーカーにほぼ限られていた有機ELディスプレーの供給メーカーが、日本や中国にも広がり、セットメーカーが調達しやすくなるのは確実だ。例えばJDIは、これまで有機ELの量産ラインを持たず、液晶の生産に特化してきたが、「2018年の有機ELディスプレー量産開始」に舵を切った。今後2~3年に相次いでスマホ用パネルの新工場を立ち上げる中国のメーカーも、ターゲットを液晶から有機ELに切り替えたり、有機ELの量産開始を前倒ししたりしようと動き出した。