転がり軸受の損失を極限まで小さくするために、摩擦の原因である保持器をなくした軸受が現れた。保持器がなくても転動体が間隔を保つ独自の工夫を取り入れた。摩擦抵抗を少なくとも1/2、条件によっては1/14に減らすことができる。

 2016年9月、長野工業高等専門学校(長野高専)のチーム「Selene」は長野市で開かれた燃費競技車の大会「エコマラソン長野」で優勝した(図1)。燃費競技車とはガソリンエンジンで走る自作のエコカーで、この時に達成した燃費1404km/Lは大会新記録だった。続く10月には、栃木県の「ツインリンクもてぎ」での「Honda エコマイレッジ チャレンジ 2016」の全国大会に出場した。3位にとどまったが、記録は1770km/Lと延びた。

図1 長野高専の燃費競技車
図1 長野高専の燃費競技車
(a)1404km/Lは大会新記録。摩擦の少ない新開発の軸受「ADB」で燃費を改善した。(b)燃費競技車の前輪1輪当たり、この軸受を2個使う。
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 勝因の一つは空スペース(本社:東京都小金井市)が開発した軸受「ADB(Autonomous Decentralized Bearing:自律分散式転がり軸受)」だろう。長野高専は3輪のうち前の2輪にADBを装備し、従来の軸受を使った場合に比べて燃費を7.5%向上させた。燃費競技車はエンジンを切って惰力で走る時間が長いため、空気抵抗と並んで軸受の抵抗が大切である。

 今回、競技車に装備した軸受は、空スペースが製造し、オレンジソフト(本社東京)が自転車用に販売している「ADB 6901」だ。外径は24mm、内径は12mm、幅は6mm。セラミックス製の玉を採用する。

 空スペースはADB 6901のほかにサンプル品としてアンギュラ玉軸受の販売を始めている(図2)。外径22mm、内径8mm、幅7mmを標準品とし、深溝玉軸受や4点接触玉軸受などの特注品にも対応する。外径が19~200mmの加工実績があるという。

図2 保持器のない転がり軸受
図2 保持器のない転がり軸受
(a)サンプル販売を開始したアンギュラ玉軸受標準品は、外径22mm、内径8mm、幅7mmで、内外輪はSUJ2製、玉はセラミックス製。(b)通常の軸受は、転動体の間隔を保つ保持器が軸方向の両面に付いているが、これはない。転動体の公転速度を減速させる領域(DSP)を設けることで、転動体同士の間隔を広げる(分散させる)。なお、転動体同士が接触するとしても、負荷が加わっていない場合に限られる。
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