知られざる医学上の知見を、遺伝子や治療に関する膨大なデータから機械学習技術で導く。同様な構想は数ある中で、Infinite Curationが打ち出した武器は、プロセッサーやDRAM まで独自に開発したスパコンで、仮説の生成や検証を超高速で実行できることだ。医学部出身で数々のベンチャー企業を立ち上げてきた齊藤氏に構想を聞いた。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)

 新会社Infinite Curationを2016年8月に立ち上げました。がん患者の遺伝子情報を診断や治療に活用するシステムの構築を目指します。国内の地方国立大学などと協力してがん患者の遺伝子情報や治療に関するデータを集め、ディープラーニング(深層学習)をはじめとする機械学習技術と、次世代スーパーコンピューターを用いて、診断や治療、創薬に役立つ知見を導く考えです。

 既に米国では、米国立衛生研究所(NIH)の主導でがん細胞のDNA情報を解析した「The Cancer Genome Atlas(TCGA)」プロジェクトの成果を基に、診断や治療の助言を提供する会社が幾つもあります。ただし、これらは旧来のビッグデータ解析の手法による結果に基づきます。機械学習技術と次世代スーパーコンピューターを使うことで、人間が気づかなかった深い知見を導けると考えています。そもそも、遺伝子と病気の関係は1対1に対応するというより、その大半がN対Nの関係だろうと見ており、データの中には人間が気づかない、理解できない関係が無数に埋もれているはずです。

 我々の強みは、ビッグデータからの仮説の生成と検証を独自のハードウエアで加速できることです。がん遺伝子の解析結果だけでも患者当たり1Tバイト程度もあるため、例えばディープ・ニューラル・ネットワークで症状や治療薬と遺伝子情報の関係を解析するには膨大な計算資源が必要になります。我々は、同じく8月に立ち上げた新会社Deep Insightsが開発する機械学習専用プロセッサーを使うことで、データから高速に仮説を導き出せる環境を早期に整える計画です。米NVIDIA社の既存のGPUを使う場合と比べて約1000倍高速なチップを2017年末までに開発。このプロセッサーを使った大規模処理システムが2018年には利用可能になります。深層学習に限らず、さまざまな機械学習手法を高速化できる汎用性を持ったシステムになる予定です。