他社にない製品、優れた品質の製品をより早く、より安く造る。日本の製造業はそんな「強い工場」を目指して、技術と人を磨き続けてきた。しかし、市場も生産拠点も海外シフトが進み、新興国の工場も実力を高めてきている。こうした中、海外勢に負けじと、国内外の工場が最新技術を活用しつつ、もっと「強い工場」の実現に向けた取り組みを加速させている。

人材と生産技術が弱くなっている

 なぜ今、もっと強い工場が必要なのか。その背景にあるのは、競争力低下に対する危機感だ。「日本の工場は弱くなっている」─。日経ものづくりが実施したアンケート調査では、そんな危機感がはっきりと表れた*1。「最近の5年間で日本の工場の競争力はどう変化したと思うか」という問いに対し、「弱くなっている」との回答が過半数の55.2%を占めたのだ。一方、「強くなっている」は14.8%にとどまった(図1)。

*1 回答者のプロフィールは、第3部「数字で見る現場」のグラフに準じる。

図1 日本の工場の競争力の変化
図1 日本の工場の競争力の変化
「弱くなっている」との回答が55.2%に達した。逆に「強くなっている」は14.8%にとどまる。
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 では、どういった点が弱くなっているのか。図1の質問で「弱くなっている」「強くなっている」と答えた人に、それぞれ弱くなっている力、強くなっている力を挙げてもらった。

 弱くなっている点として最も多いのは、「作業者の技能・技術力」で60.6%に達した(図2)。「生産技術力」が45.7%とそれに続く。つまり、製造業に携わる人の多くが、日本の製造業は「人材」も「技術」も弱くなっているとみているのである。

図2 競争力が「強くなっている」「弱くなっている」点
図2 競争力が「強くなっている」「弱くなっている」点
弱くなっている点として最も多いのは、「作業者の技能・技術力」。「生産技術力」がそれに続く。ただし、逆に強くなっているのも「生産技術力」が最多。強くなっている点としては、「コスト低減への取り組み」「自動化設備を開発・活用する力」「品質管理能力」も多かった。
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 逆に強くなっているのはどこか。興味深いことに「強くなっている」のも「生産技術力」が最多の51.6%だった。日本が強みとしてきた生産技術力は、海外勢の追い上げで総じて実力差が縮まっているものの、技術に磨きをかけてますます強くなっている工場もあるということのようだ。この他、強くなっている力としては、「コスト低減への取り組み」との回答が「生産技術力」と同じく51.6%で、「自動化設備を開発・活用する力」(45.2%)、「品質管理能力」(43.0%)がそれに続いている。ここで、コスト低減は生産性の向上と言い換えてもいいだろう。

 これらの結果から、「人材」と「生産技術力」の相対的な弱体化への危機感が募る一方で、それを補うべく自動化技術などを駆使して、より高いレベルの「生産性」と「品質」を目指して工場の強化に向き合っている姿がうかがえる。

 加えて、強い工場を実現する上でもう1つ忘れてはならない要素がある。多品種少量生産や変種変量生産に臨機応変に対応できる「柔軟性」である。第3部「数字で見る現場」の調査結果でも、「強い工場の実現に欠かせない技術力」は何かを聞いた問いに対し、「他社にまねできない製品や部品を造れる技術力」(60.0%)、「工程内で高い品質を造り込める技術力」(59.4%)と並んで多かったのが、「多品種少量生産や変種変量生産などに柔軟に対応できる技術力」(55.2%)だった(第3部「数字で見る現場」Q1参照)。