――「メディカルノート」はどのような経緯で生まれたのですか。

 私が医師になって3年目に、母校の横浜市立大学に戻ったことが大きなきっかけとなりました。消化器内科学を学ぶ環境を稲森正彦先生(現・横浜市立大学医学教育学主任教授)など多くの先生方のご協力で整えていただきながら、大学院では医学教育学を専門とする研究室に入りました。そこで大きな影響を受けたのが、当時の主任教授だった後藤英司先生(現・横浜市立大学名誉教授)です。先生は科学と社会をつなぐ人材、いわゆるサイエンスコミュニケーターの育成や、一般の方を対象にした医学教育に力を入れていました。その一環で、医師としての経験がまだ浅かった私に、医学書籍の編集や執筆に携わる機会を与えてくださったんです。

 私自身、研修医時代から医療現場でのコミュニケーションのあり方に関心を持っていました。忙しい医師が短い診察時間の中で、患者に伝えるべきことをきちんと伝えられているのか。そんなことを疑問に思う日々だったからです。

[画像のクリックで拡大表示]

 患者自身に、医療や病気のことをよく理解してもらうことの大切さも感じていました。例えば糖尿病患者であれば、患者自身が足のケアなど細かいケアに向き合うことが、治療の質を高める。患者が能動的にケアに関わることで、医療の質を高められます。

 ですから、医学教育や医療におけるコミュニケーションという研究テーマをとても面白く感じたんです。ただ、次第に書籍や講義といったオフラインでの情報発信に限界を感じるようにもなりました。工学部の学生を対象とした医工連携の授業を受け持たせてもらったりもしたのですが、どれだけ丹念に準備してもそれを伝えられる相手はせいぜい数十人。インターネットなどオンラインの手段を使って、マス(不特定多数)に対する情報発信ができないかと考えるようになったのはそれがきっかけですね。

 起業に向けて具体的に動き始めたのは、2014年春ごろです。当時、中学・高校の先輩だった木畑(現・メディカルノート代表取締役社長/医師の木畑宏一氏)との再会があり、そして木畑の紹介で梅田(投資家・起業家で現・メディカルノート取締役の梅田裕真氏)と出会いました。梅田は医療従事者ではありませんが、ユーザーの視点から、信頼できる医療情報が容易には手に入らないことへの不満や不安を持っていた。そのような状況を何とかして変えていきたいという熱い思いを、私と出会う前からずっと持ち続けていたんです。

 私はどうしても、医療従事者の目線で物事を考えがち。医療従事者ではなく、かつインターネットサービスにも豊富な知見を持つ梅田が、創業メンバーとしてそばにいてくれたことは大きかったと思います。彼や木畑と何度も議論を重ねたことで、当初からユーザー目線を意識できました。医療従事者に限らない多彩な人材の集団であることは、今でも我々の強みだと思っています。

 彼らと一緒にメディカルノートを創業したのが、2014年10月。医療情報サイトを立ち上げたのが2015年3月です。