――今回の医療情報学会の大会テーマは「次世代医療ICT基盤としての人工知能」です。このテーマになった背景を教えてください。

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 実は以前、医療と人工知能は近い関係にありました。1970年代に「エキスパートシステムMycin」(エキスパートシステムは、専門家に近い判断を下すことができる人工知能システムのこと)が開発され、1980年代には人工知能のブームが到来しました。そのころ、人工知能の一つの軸が医療応用だったのです。医療情報学会でも当時は、診療支援という位置付けで人工知能を議論していました。

 ところが、エキスパートシステムがうまくいかなかったこともあり、人工知能の研究が下火になって、ブームも去っていきました。それに伴って、医療応用に関する議論もなくなっていったわけです。医療と人工知能の間には、距離ができてしまいました。

――今では再び、人工知能の医療応用が注目されています。どのような変化があったのでしょうか。

 人工知能の技術面で大きな進展があったためです。計算資源が飛躍的に向上し、データマイニングや機械学習も進化してきました。より成熟的な研究になってきたという印象です。こうした中で、あらためて応用分野の一つとして医療にスポットが当たってきている状況ではないでしょうか。

 一方で、医療情報分野では、電子カルテの導入にかかわる議論が一段落しました。次は、電子カルテが集めた情報をどう使っていくか、どう知的な支援に結び付けるか、といったフェーズに注目が移り始めているわけです。まだ完全には交わっていませんが、いったん距離がひろがった医療と人工知能は今、徐々に近づいてきています。