――日々の仕事の中身について教えてください。

 依頼主や依頼内容によって異なりますが、大きく2つのパターンがあります。写真や動画などの素材があって、それをもとにイラストを描く場合。そして、素材はなくてイメージだけを口頭で伝えられる場合ですね。医師の学術論文やプレゼンテーション資料、医療機器メーカーの製品カタログ、医学の教科書など、掲載媒体はさまざまです。

 写真や動画があるなら、それをそのまま紙やWebに載せればいい。イラストなんて不要では、と思われるかもしれませんが、そうではないんです。例えば、手術の術式をビジュアルで表現したい場合に、手術中に撮影した動画をそのまま見せても伝わらない。血だらけの映像なので細かい部位なんかが分かりにくいですし、執刀医のどの動きが手技上のポイントになっているかも分かりにくいわけです。

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 そこで、写真や動画をもとに、どこに何の部位があるのか、手術中に執刀医がどこをどう操作しているかなどを、重要な箇所を強調したり、不要な箇所を削ったりしてイラストで分かりやすく示す。例えばそういうことが私の仕事です。私自身も、写真や動画からはそういう情報を読み取れないことも多い。ですから、専門の論文を読んだりして情報を補います。

 循環器や消化器のイラストを描くことが多いのですが、心臓一つとっても、医学書などに載っているのは限られた角度からの視覚情報です。実際の手術や論文執筆に当たっては、別の角度からの視覚情報が欲しいということがよくある。そういう情報をイラストで提供するわけです。

 医療機器メーカーの製品カタログの場合でも、例えば血管吻合(ふんごう)に使う機器であれば、それがどのような手技にどのように役立つのか。機器の良さを引きだすような情報を、イラストで端的に示すことが求められます。

 最近はWeb媒体向けの仕事も増えました。メドレーさんの「オンライン病気事典」のイラストはその1つです。一般の方が見るものなので色味をマイルドにしたり、一般向けの場合は専門家向けとは違った工夫が必要になりますね。