――データ周りに力を入れることで、画像診断装置を中心に据えてきた会社としての姿も大きく変わるのでしょうか。

 そうは思っていません。画像診断は我々にとって“一丁目一番地”。コアバリューであり、この領域の競争力強化なしに会社の成長はあり得ません。ただし今後はこれに加えて、2つの領域を成長ドライバーにしたいと考えています。

 一つは今お話しした、データ周りを扱うIT分野。今後この市場が伸びることは確実ですし、米国では既に大きな市場に育っています。ただし、国や地域ごとの社会システムの違いなどを背景に、顧客の受け入れのメンタリティーには差があります。例えば日本では、医療の個人番号制度の議論がいろいろとなされているように、この分野のニーズがはっきりとは顕在化していません。少し時間はかかるかもしれませんが、画像診断の強みなどを生かしてIT分野でも存在感を発揮したいと考えています。

 もう一つは、ライフサイエンスです。ここは少し出遅れていますが、長年手掛けてきた血液検査に加え、感染症などの迅速検査や遺伝子検査へとポートフォリオを広げつつあります。

 これら3つの領域を成長させていく上で、必要であればM&A(事業統合/買収)も積極的に検討します。どの分野で、ということは特に決めていません。画像診断でもあり得ますし、ライフサイエンスでもキラリと光る技術を持つベンチャーが存在したりもする。幅広く対象を探します。

 我々が力を入れる取り組みを、顧客に提供する価値という視点でお話ししましょう。これにも3つの柱があります。

 第1に、臨床的価値(Clinical value)。例えば、超音波診断に関して我々はSMI(Superb Micro-vascular Imaging)と呼ぶ血流イメージング技術を持っています。これを使うと、腫瘍のように見える部分について、その微細な血管の形成を可視化でき、がんの早期診断などにつなげられます。臨床的価値を高めるこうしたイノベーションこそが、製品の価値を大きく左右するわけです。

 第2に、作業効率上の価値(Operational value)。診断結果にたどり着くまでの医療従事者の作業をいかに効率化するか、つまりワークフローの改善にかかわる部分です。第3は、経営的な価値(Financial value)。求められる機能を、いかに低い価格で実現するかという点です。

 時代とともに、この3つの重みづけは変化する。それでも、これらが我々が提供すべき中心的な価値であることは今後も変わらないでしょう。

――一丁目一番地と位置付けるX線CTや超音波、MRIなどの画像診断分野で、世界大手とどう戦っていきますか。

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 X線CTについては、世界トップシェアを狙います。GE Healthcare社やSiemens社もその座を簡単には譲ってくれないでしょうが、2社との差は小さい。25%前後のシェアで3社が競り合っていると見ています。我々の製品は高い診断能力と検査効率、そして低い被曝量という強みがある。2の矢、3の矢を放って競争力をさらに高めていきます。

 超音波についても、SMIや高周波プローブなどの技術で精緻な診断を可能にしています。最近投入した新製品にも、強い引き合いがある。腹部を中心とする放射線科領域では、30%以上のシェアを握っているというのが我々の認識です。循環器や産婦人科領域も強化しており、これらの領域でシェアを高めることで、超音波診断全体でのポジションも高まる。かなり手応えを感じています。

 MRIに関しては、競合に対してまだキャッチアップの段階です。今後3年間で技術や製品のポートフォリオを一挙に拡充しようと、重点的に投資しています。MRI開発部門に加えて、他の部門からも人員を集めて次世代MRI開発チームをつくり、同時並行でいくつかの案件を走らせています。ここ1~2年でその成果が出てくるでしょう。

 MRIでは、臨床の先端をいく医療機関や医師とのネットワークづくりにも力を入れています。それを通じ、将来のトレンドを踏まえた開発戦略を練ったり、学会で成果を発表して我々の製品の有用性を臨床医に認知してもらったりする。ここがすごく重要なんです。こうした取り組みの具体的な成果として、米国の複数の研究機関との共同研究に基づくMRI開発センターを今春に開所します。これをテコに、MRIの研究開発や医療機関との臨床研究を加速させたいですね。