──どのように見せ、動かすかは瀬尾さんが一から考えるのですね。

 オートファジーの分子構造を映像化するのにストーリーを考えたように、私の仕事の要は、どういう風に何を見せたいのかをかみ砕くことです。

 iPhoneが登場したとき、「新しい技術が使われているわけでもないし、誰にでも作れる」と言われていましたが、iPhoneの登場はほかのAndroid端末の先駆けでした。私の作るCG映像も、昔ながらの技法を詰め込んだものですから、30年前から実装できたものかもしれません。しかし、誰もやらなかったことなのです。

 それは、「CGを使ってこういう風に動かせたらもっと役に立つよね」と考えられる人がいないからです。ほかの優秀なCGクリエイターの手にかかれば、こういう風に動くものが欲しいという“脚本”さえあれば、私が作るよりもかっこいいものを作れるでしょう。しかし脚本がないから、医療で役に立つものを作るのは難しいのです。肝心なのはCG技術ではなく、“脚本”や“設計図”の部分なのです。

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 私が手掛けたCGコンテンツの1つに気管支鏡のシミュレーションがあります。これは、呼吸器内科と呼吸器外科の先生から、「気管支鏡は複雑で、きちんと学べる教材がない」という話を聞いたことがきっかけでした。よくよく話を聞くと、バーチャルのシミュレーションソフトはあるけれど、変な風に動いたり動かし方が難しかったりするということでした。話を聞きながら、キーボードとマウスに適切に操作を割り当てれば、CGを使ったシミュレーションソフトを作れると思ったのです。

 臨床医の先生は答えではなく、ヒントを持っています。そのヒントを基に、こうやって見せたらいいんじゃないかなという1つの提示方法を考えるのが仕事です。“指揮者”や“脚本家”と例えられることもあります。