──大隅良典氏のNobel Lectureでオートファジーメカニズムの3次元CGが使われたと聞きました。

 大隅先生からの依頼は、限られた時間で仕上げなくてはなりませんでした。大隅先生と共同研究者の先生に2時間ほど研究内容をうかがい、1カ月という短い期間で作成しました。もともとオートファジーの分子構造に馴染みがあったわけではありませんが、たんぱく質なら連鎖反応やシグナルカスケード…というような感覚を思い出しながら勉強し直しました。

 シグナルカスケードを映像化したいという要望はいただきましたが、詳細な絵コンテが存在するわけではありません。ストーリーを組んでいくのが私の仕事です。

たんぱく質の飢餓条件下における脱リン酸化。オレンジ色の丸印がリンを表しており、 たんぱく質から離れることで脱リン酸化を示している。(画像提供:サイアメント)
たんぱく質の飢餓条件下における脱リン酸化。オレンジ色の丸印がリンを表しており、 たんぱく質から離れることで脱リン酸化を示している。(画像提供:サイアメント)
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 作成した映像では、解かれている立体構造は全て正しいものを使用しました。先生方の論文を参考にし、脱リン酸化が起きている部位もほぼ正確に再現しています。寸分違わず再現できているわけではありませんが、見ている人が「あそこは違うのにな」と変に考え込まなくていいようにしました。

 作成した映像を見てもらえればわかると思いますが、分子構造が複雑に表れる場面と、オレンジ色や紫色の塊として表示される場面があります。複雑な表面構造は、科学的なソフトウエアを使用して表示しました。そして、表面構造を基に作成したシェーマ(図式)を組み合わせたのです。

オートファジー関連分子構造の3次元CG。解かれている立体構造を正しく再現した。(画像提供:サイアメント)
オートファジー関連分子構造の3次元CG。解かれている立体構造を正しく再現した。(画像提供:サイアメント)
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 全ての場面で複雑な分子構造を表示せずに、シェーマも利用したことには理由があります。時間が足りなかったという裏話もありますが、一番は見ている人の理解を考えてのことです。今回の映像ではいろいろなたんぱく質が絡み合っていることを見せたかったのです。その際には、必ずしも正確な立体構造が見やすいとは限りません。ざっくりとオレンジ色やピンク色の塊が絡み合っているほうが理解を助けると考えたのです。

Atg1複合体の超分子集合。シェーマを使ってさまざまなたんぱく質が絡み合っている様子をわかりやすく再現した。(画像提供:サイアメント)
Atg1複合体の超分子集合。シェーマを使ってさまざまなたんぱく質が絡み合っている様子をわかりやすく再現した。(画像提供:サイアメント)
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