「損害」の範囲に関する考え方

 ちなみに本件において、説明義務違反が成立すると仮定した場合、データの損失に関する損害、太陽光発電システム導入費用の損害の賠償が義務づけられるでしょうか。

 この点、データの損失に関する損害については、停電しない家と信じていたがために、夜間もパソコンの電源を落としていなかった、といったような事情があった場合には、説明義務違反との間に相当因果関係が認められる可能性が高いと考えます。

 他方、太陽光発電システム導入費用について、説明義務違反との間に損害賠償が認められるためには、「きちんとした説明を受けていれば、太陽光発電システムを導入しなかった」との事情が必要になります。

 この点、上記裁判例においては、「人の生命や健康に関わる病院の業務において、電力供給の安定を確保することが重要な課題であることはいうまでもなく、…(中略)…無停電のシステムが重要な考慮要素であったとするD(引用者注:病院理事長)の前記供述は、信用することができる」として、自家発電システムのコストメリットに着目した導入であったとの被告の主張を退け、常時無停電の機能を有することが、自家用発電システム導入の必須条件であったことを認定し、発電機のリース料金の損害賠償請求を認めています。

 他方、一般の住宅において、常時無停電であることが、重要な考慮要素となるものとは通常、考えがたいことから、本件においては、特段の事情がない限り、太陽光発電システムの導入費用の損害賠償請求は認められない、と考えられます。

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