本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第118巻第1160号(2015年7月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

[1] はじめに

 高度成長期以降に整備された社会インフラ構造物は、建設後50年以上経過する施設の割合が今後20年で加速度的に高くなる。とくに橋梁については、半数が建設後50年以上となり、劣化の進展が社会的問題となる危惧が高まっている。

 橋梁の点検では、近接目視や打音による検査が実施されているほか、センサーを活用したモニタリングが検討されている。たとえば振動センサーにより橋梁構造の固有振動数を継続的に計測し、その変動をモニタリングする試みや、変位計を用いて橋梁構造全体の変位や変形を計測し、構造の沈下や変状を把握する試みが行われている。こうして振動や変位センサーにより橋梁の状況をモニタリングすることは、車両などの通行に重大な支障が生ずる事態を事前に察知する、といった観点から有効な手段と考えられる。

 一方で、長期的な視点での財政負担の軽減に鑑み、インフラの維持管理のライフサイクルコスト(LCC)低減といった観点に軸足を置いた取り組みが期待されている。例えば、道路床版の維持管理は、目視点検で深刻な損傷が確認されてから大規模な修繕を行う事後保全から、損傷が軽微なうちに修繕を行う予防保全に転換し、架け替えの抑制によるライフサイクルコストの低減を図る試みが行われ始めている。

 しかし、目視調査でランク分けできるようなコンクリート床版のひび割れなどでは、従来の点検手法で予防保全への一部移行も可能であるが、現実には、目視点検困難な内部損傷が進行し、目視確認できたときにはすでに深刻化しているケースも存在する。したがって、予防保全への大規模な転換には、内部損傷など目視点検困難な損傷をモニタリング可能とする技術の導入が必要とされる。

 内部損傷の検知に有効なセンサーとしてAE(アコースティック・エミッション)センサーがある。AEセンサーは、材料が変形あるいはき裂が進展するときなどに発生する弾性波を検出するもので、橋梁等の構造物の異常を(大規模な)破壊前に検出でき、リスクの度合いの定量評価に寄与するものである。