本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第85巻、第3号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

ダイヤモンドは、次世代パワーデバイス材料として実用化が始まりつつあるSiCやGaNを超える材料ポテンシャルを有し、次々世代パワーデバイスへの応用が期待される。高い絶縁破壊電界強度から予測される超低損失化だけでなく、高い電流密度耐性や高温での安定性により超高電圧領域への応用も期待できる。我々は、ダイヤモンドの材料ポテンシャル検証と、高耐圧デバイスに向けた可能性検討の一環としてpinダイオードを試作し逆方向耐圧に着目して特性を調べてきた。これまでに降伏電界として3.6MV/cm、降伏電圧としてダイヤモンドpinダイオードで最高の11.5kVを得た。本稿では、これらの結果とともに、繰り返しの降伏に対する耐性や熱に対する安定性パワーデバイスとして有利な特性がデバイス構造で得られた結果について紹介する。

 ダイヤモンドは、強固で高熱伝導率(20W/cm・K)であるばかりでなく、5.5eVという大きなバンドギャップエネルギーを有するワイドギャップ半導体である。絶縁破壊電界強度が>20MV/cm1)というSiCやGaNに対して1桁近く高い耐圧を有し、高いキャリヤ移動度を有する材料で、理論的にはパワーデバイスの効率を大幅に改善することが可能である。

 また、超低損失のパワーデバイスが期待できるだけでなく、ほかの半導体では実現が難しい10~100kVの超高耐圧領域での高効率パワーデバイスの実現が期待される。それにより、長距離送電や海底送電網の基幹部を構成する超高電圧直流送電システムの高効率化、小型化を可能にし、送電システムの小型化による送電網の普及を加速することが期待される。

 1990年代に高品質な単結晶ダイヤモンド膜がメタンガスを原料とするマイクロ波プラズマ化学気相成長(Chemical Vapor Deposition: CVD)法により比較的容易に得られるようになった。そこから半導体としての研究が加速し、基板大口径化に向けた技術や電気伝導に必要な不純物ドーピング技術がここ数年で著しく向上して、実用化に向けた研究の報告が急速に増加している。これまでに、ダイヤモンドのパワーデバイスとしてショットキーバリヤダイオード(Schottky Barrier Diode: SBD)2~4)、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor: FET)などの報告がある5,6)

 我々は、ダイヤモンドによる超高耐圧高効率パワーデバイスの可能性実証に向けた研究の一環として、高品質なホモエピタキシャルダイヤモンドを用いた単純な構造の縦型pinダイオードの試作評価によるダイヤモンドの高耐圧動作の可能性検証を進めている。SBDの耐圧が、電極/ダイヤ界面の状態に影響を受けやすいのに比べ、pinダイオードはi層で耐圧を担うので、i層膜厚を厚くすることにより高耐圧化が可能である。また、バイポーラ動作によりi層を厚くしてもオン抵抗を低くすることが可能である。

 これらのメリットから、一般的に高電圧応用に適している。縦型pinダイオードは電界分布が単純であり、ダイヤモンド自体の耐圧を検証するのに適している。そこで本稿では、単純な縦型ダイヤモンドpinダイオードの逆方向耐圧について、これまでに得られた研究結果を紹介する。