「人間よりも間違えない」なら利用価値はある

 「医療×AI」の歴史をひもとくと、1966年には世界初のチャットボット「ELIZA」、1975年には感染症の治療方針を提示するソフトウエア「MYCIN」が登場。その後は“ 冬の時代” を迎えたが、現在は2011年に登場した米Apple社の「Siri」や米IBM社の「Watson」などに受け継がれている。

 医療への応用が期待されている領域の一つが、画像診断である。代表的なプレーヤーとして名前が挙がるのが、放射線画像の読影をAIで支援する技術を手掛ける米Enlitic社である。AIによる読影に対しては「機械が見逃したらどうするのか」という懸念も出ている。しかし、そもそも人間は間違いを犯す存在であり、「仮にAIが間違えたとしても、その数が人間よりも少なければAIを使う理由になり得る」(沖山氏)。

 新薬開発の領域では、AIを活用し、新しい化合物を効率的に探索する技術を米Atomwise社が提供している。既にエボラウィルスの治療薬候補を発見するなどの成果をあげているという。このほか、米Google社は現代版のフラミンガム研究ともいえる対象者1万人/4年間にわたるプロジェクト「Project Baseline」を実施している。

N対1の関係にも対応できる

 ディープラーニングにも、いくつか課題はある。第1に、精度向上のために大量でしかも質の良いサンプルが必要なこと。写真をサンプルとして学習するとイラストは認識できないなど、学習したデータ以外への応用が利きにくい点も弱点という。「AIの思考根拠が、人間には分からなくなるという難しさがある」と沖山氏は指摘する。

 一方で、AIは大きな可能性も秘めている。その一つとして、「胸が痛い、イコール心臓病」といった1対1の関係で行われてきたこれまでの診断に対して、AIであればより複雑な関係、例えばN対1の関係を単純化することなくそのまま診断に役立てられることが挙げられる。

 また、世界で1日1000本以上出ているとされる医学論文のすべてに目を通すことは人間には不可能だが、AIであれば全論文を解析することもできる。AIが論文を自動翻訳して検索し、医師がほしい情報をスクリーニングしてくれる。そんな未来も技術的には可能だと沖山氏は見ている。