米国オバマ大統領が2015年1月に打ち出した「Precision Medicine Initiative」。個々人の遺伝情報などに基づく精密(個別化)医療を実現しようという国家プロジェクトである。これを追い風に個別化医療への動きが加速している米国では2016年に入り、新たな医療プロジェクトが立ち上がった。「National Cancer Moonshot」がそれだ。

 National Cancer Moonshotは、がんの新しい診断法や治療法を開発し、がんの克服を目指そうというプロジェクト。バイデン副大統領が主導するもので、総額10億米ドルを投じる。Moonshot、つまりかつての月面着陸計画になぞらえた一大プロジェクトだ。

 その柱となるテーマの1つが、ゲノム解析である。米国では目下、がん患者のゲノム解析やその活用に向けた基盤づくりが急ピッチで進んでいる。キーワードは「Data Sharing(データシェアリング)」。がんゲノムのデータベースをクラウド上などに構築し、医療界や産業界のさまざまなプレーヤーにアクセス可能とする取り組みである。これにより、ゲノムデータの解析と活用に要する時間やコストを大幅に削減し、ゲノム医療を早期に普及させる狙いがある。

井元氏の講演の様子
井元氏の講演の様子
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 2016年7月6日に東京大学で開催された「第5回 健康長寿ループの会」(主催:東京大学COI機構)では、スーパーコンピューターを活用したがんゲノム研究などで知られる東京大学医科学研究所の井元清哉氏(同研究所 ヘルスインテリジェンスセンター 健康医療データサイエンス分野 教授)が登壇。「ゲノム解析の最前線」と題し、ゲノム解析基盤構築の最新トレンドを紹介した。