治験参加患者の日々の症状変化を、ウエアラブル端末で追跡する――。慶応義塾大学医学部を舞台にそんな試みが始まった。

 慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室教授の小川郁氏と同専任講師の藤岡正人氏らは2018年4月24日、難聴やめまいなどを引き起こす難治性疾患であるPendred(ペンドレッド)症候群に対する治療法の医師主導治験を始めると発表した。同大学医学部生理学教室教授の岡野栄之氏と共同で行った、iPS細胞を用いた研究の知見を活用する。

 この治験では患者にウエアラブル端末や検査機器を貸与し、難聴やめまいの症状、体調の日々の変化をモニタリング。測定結果はタブレット端末を介してデータセンターに送り、治験データとして管理・分析する。ウエアラブル端末として使うのは、眼鏡型端末「JINS MEME」だ。

左から順にポータブルオージオメータ、ワイヤレスフレンツェル眼鏡、眼鏡型端末「JINS MEME」、タブレット端末
左から順にポータブルオージオメータ、ワイヤレスフレンツェル眼鏡、眼鏡型端末「JINS MEME」、タブレット端末
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タブレット端末を介してデータセンターへ送信(出所:慶応義塾大学)
タブレット端末を介してデータセンターへ送信(出所:慶応義塾大学)
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 難聴やめまい発作のあるペンドレッド症候群の患者を対象に、シロリムス(ラパマイシン)と呼ばれる免疫抑制剤を低用量で投与する治療の安全性や、難聴・めまい発作に対する有効性を評価する。実施期間は患者一人につき10カ月間。

 この間、自宅にいる患者の難聴やめまいの状態などを遠隔モニタリングすることで、症状や体調の日々の変化を調べる。ペンドレッド症候群は「症状の変動が大きく、月1回の診察できちんと評価できるかが課題だった。今回はモニタリングによって症状の日々の変動を捉える」(藤岡氏)。

 患者の体のゆれや平衡を測る目的で利用するのが、JINS MEME。聴力を測るポータブルオージオメータや、眼球の振動を調べるワイヤレスフレンツェル眼鏡も併せて使う。これらの機器で測定したデータや生活に関する問診情報は、タブレット端末を介して治験データセンターへ送られる。いわゆるIoT(Internet of Things)の仕組みだ。

 こうして膨大なデータを集めることで、治療効果を詳細に検討する。IoTを用いたデータ収集は「ビッグデータの入り口として非常にシームレスで、(電子カルテなど各種の医療記録から治験データを集める場合のような)改ざんの懸念もない」(藤岡氏)というメリットがある。