Apple Watchで「かゆみ」を研究

ネスレ、就寝中の“かきむしり動作”を見える化

2017/04/14 05:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 寝ている間に、皮膚をかきむしって傷つけてしまう。アトピー性皮膚炎や乾燥肌による「かゆみ」に悩んでいる人なら、誰でもそんな経験があるだろう。自覚のないあなたも、実は夜中に皮膚をかきむしっていることに、気付いていないだけかもしれない。

就寝中にApple Watchを活用
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 就寝中の“かきむしり”の実態に、Apple Watchで迫る――。スイスNestléの子会社、ネスレ スキンヘルス(Nestlé Skin Health)がここに来て全世界で始めたのは、そんな臨床研究だ。同社の日本のチームが、米Apple社の臨床研究用オープンソースフレームワーク「ResearchKit」を用いて開発したiPhoneアプリを使う。その名も「Itch Tracker(イッチトラッカー)」。

 同アプリでは、Apple Watchが内蔵する加速度センサーを活用し、就寝中に皮膚をかいた時刻を記録。アトピー性皮膚炎などの疾患の有無や、かゆみの強さの自己評価との相関を分析し、「かゆみの客観的評価法や、かゆみを伴う疾患の治療法の開発につなげる」(ネスレ スキンヘルス シールド・アジアパシフィック メディカルディレクターで皮膚科専門医の生駒晃彦氏)ことを狙う。

 かゆみは、アトピー性皮膚炎や乾皮症といった、身近な皮膚疾患に見られる症状。健康な人でも皮膚が乾燥したりするとかゆみを感じやすく、皮膚以外の疾患がかゆみを伴うことも多い。問題なのは、かゆみがあると皮膚をかきたくなり、かくことで皮膚の状態が悪化しかゆみがさらに増すという「悪循環に陥り、皮膚の状態を一挙に悪くしてしまうことがある」(生駒氏)点だ。

ネスレ スキンヘルスの生駒氏
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 かゆみは、皮膚の健康のバロメーター。だがこれまでは、かゆみの把握は本人の自己評価に頼ることが多く「客観的に評価できていなかった。その結果、治療が効いているかどうかも判定しにくかった」と生駒氏は指摘する。

 今回の研究では、把握が特に難しい就寝中のかゆみの客観的評価法を開発し、この知見を将来、皮膚科の診療や治療薬開発などに生かすことを目指す。皮膚疾患を持つ人だけでなく、すべてのApple Watchユーザーが対象だ。「実際には皮膚をかいていても、それを自覚していないケースもある。健康な人を含めて、自身のかゆみの状態を客観的に知る手段として利用してほしい」(生駒氏)。

疾患ごとの特徴や自己評価との違いを分析

計測結果画面
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インストラクション画面
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 Itch Trackerは、ResearchKitを用いて民間企業が日本で開発したアプリとしては、ジンズ(旧ジェイアイエヌ)による「JINS MEME MEDICAL LAB」に続く2例目である(関連記事1)。Apple Watch専用のResearchKitアプリは、世界でもほとんど前例がないという。

 このアプリではまず、アトピー性皮膚炎や肝機能障害、糖尿病など、かゆみを引き起こす基礎疾患の有無などを入力。就寝前後に、かゆみの強さの自己評価や薬の服用の有無、かゆみによる睡眠障害の自己評価などのアンケート項目に回答する。

 Apple Watchを装着した状態で眠ると、皮膚をかいた時刻やその動作の持続時間が自動計測される。データはiPhoneと連携し、就寝中に皮膚をかいた合計時間の推定値や、それが睡眠時間全体に占めた割合をアプリが算出して表示する。かく動作が10秒以上続いた時間があったかどうかも判定。これらのデータはサーバーにも送信され、蓄積される。

 ネスレ スキンヘルスはItch Trackerの開発に当たり、アトピー性皮膚炎の患者や皮膚疾患を持たない人を対象にした検証を実施。設定した計測のしきい値では検出されないほどわずかな動作や、Apple Watchを装着していない方の手の動作を含む、合計のかき時間を精度良く算出するアルゴリズムを開発した。Apple Watchで検出されるかき時間の3倍の値が、合計のかき時間を精度良く表すことが分かったという。

 研究では、就寝中に皮膚をかく動作に「疾患ごとの特徴があるかどうかや、かゆみの強さの自己評価との違いが表れるかを検証したい」と生駒氏は話す。全世界で研究を進めるメリットを生かし、人種別の解析なども行う計画だ。