病棟(多床室)の環境をそれぞれの入院患者の好みに合わせて自動制御する――。そんなシステムを、鹿島建設とNECネッツエスアイが共同で開発した。病室内に設置したセンサーから得た情報を基に、空調や照明などの設備機器をリアルタイムに最適化するシステムである。2018年3月15日に鹿島技術研究所(東京都調布市)で実施された記者会見で、同研究所内の実験室に設置されたシステムが公開された。
療養環境向上システム「NEM-AMORE」(ネマモーレ)と呼ぶこのシステムでは、病室内に患者の睡眠状態を検知する生体センサーと、病室内の騒音、照度、温度などを測定する環境センサーを設置。それらで取得したデータを踏まえて、患者それぞれに最適化した「音」「光」「温熱」の室内環境に設定する。
患者ごとの睡眠状況や、手動で調節した明るさや温度の記録が常にサーバーに蓄積されるため、そのデータを基に患者個々の生活リズムや好みに合わせたオーダーメイドの室内環境にすることが可能という。鹿島建設が2016年10月に開発を発表した睡眠環境向上技術と、NECネッツエスアイのIoT技術やホテル向けルームマネジメントシステムで培った環境制御技術を融合して実現した。
「音」については、患者の就寝時に微弱な音(ブラウンノイズ)を発生させることで周りの雑騒音を緩和して入眠を促す。睡眠を検知した後はノイズを徐々に下げ、自動的に消音する。さまざまな音が混在して患者が耳障りに感じることや、逆に静かすぎると隣接する患者の生活音や廊下のスリッパ音などが気になってしまうことを解消する。
「光」については、サーカディアンリズムを踏まえ、病室内の照度を朝方は上げ、昼以降は徐々に下げていくといった、一日の生活リズムが安定するような光環境を自動的に創出する。多床室においては、窓側と廊下側の患者で日中受ける照度にばらつきが出るため、環境センサーでモニタリングしながら最適化するという。
「温熱」については、患者の就寝時には送風によって快適な入眠と深い眠りを促す。睡眠を検知して一定時間が経過した後には送風装置を弱めつつ、室内空調を最適化するという。
鹿島建設とNECネッツエスアイは、2018年度から年間200床以上を目標に医療施設への提案を本格的に推進する考え。病院に限らず、ホテルや高齢者施設などに向けた適用拡大も図っていくとしている。