センサーを使って被介護者の見守りをすることが当たり前になりつつある。しかし、こうした技術の活用によって、思わぬ弊害も生じている。

 ある介護施設では、入居者がベッドから転落するのを防ぐために、センサーを導入した。入居者がベッドから転落しそうになると職員にアラートが届く仕組みだ。導入した結果、転落事故の件数は見事0件になったが、手放しでは喜べない事態が起こっていた。

 従来は、転落事故が起きた場合、職員がその原因を考察してケアに工夫を施していた。しかし、センサー導入後はアラートが鳴ると入居者をベッドの中央に移動させるという単調作業が行われるようになり、考えてケアを行うことをしなくなってしまったというのだ。

 つまり、「人間の方がロボットのようになってしまっている」とエクサウィザーズ 取締役の坂根裕氏は指摘する。センサーなどの技術は、ケアの質を上げるためにこそ使うべきだと考えているのだ。

エクサウィザーズ 取締役の坂根裕氏
エクサウィザーズ 取締役の坂根裕氏
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 そんな同社が推進しているのが、コミュニケーション技法の一つである「ユマニチュード」。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4動作を柱としており、正面から顔を近付けて見つめ合う時間を長くしたり、前向きな言葉を使って穏やかに話しかけたり、なでるように優しく触れたりすることでコミュニケーションを図る。言語によるコミュニケーションが難しい人とも良好な関係を築くことができるため、認知症の人に効果があるとされるケア技法だ。

 エクサウィザーズでは、AIを活用したユマニチュードのコーチングシステムの開発が進められている(関連記事1)。画像や音声などのデータを解析することで熟練者のケア技法の特徴をデータ化し、初心者の学習を支援することを目指している。