メガソーラービジネス

「雑草の繁殖戦略に除草剤で対抗する」。緑地雑草科学研究所・理事に聞く(第4回)

メガソーラービジネス・インタビュー

2017/03/29 05:00
金子憲治=日経BPクリーンテック研究所

緑地雑草科学研究所(福井県鯖江市)で理事を務める伊藤幹二氏(マイクロフォレスト リサーチ代表)と伊藤操子氏(京都大学名誉教授)に、メガソーラー(大規模太陽光発電所)における雑草対策のあり方などについて聞いた。過去3回のインタビュー記事では、雑草リスクとその対策、防除プランの立てる際の方向性を聞いた(関連記事1)(関連記事2)(関連記事3)。4回目以降は、各論として、除草剤、防草シート、被覆植物、機械除草の詳細を解説する。今回は、除草剤(化学薬剤)について聞いた。

緑地雑草科学研究所・幹事の伊藤操子氏と伊藤幹二氏
(出所:日経BP)

食糧生産を担う除草剤

――これまで3回のインタビューで、雑草管理では、大きく4つの手法(除草剤、防草シート、被覆植物、機械除草)を組み合わせ、メガソーラーに合った雑草管理プラン(最良管理慣行)の構築が重要とのことでした。ただ、除草剤に関しては、「地域社会に配慮して、できる限り使いたくない」という声が目立ちます。

伊藤(幹) 確かに、日本では農耕地関係者以外からの除草剤への偏見があります。その背景には、このインタビューコラムの第3回でも触れましたが、除草剤の基礎知識に乏しいために起こった失敗例などがあります。一方で、除草剤の開発には、これまで世界的に膨大な資本と科学者の英知がつぎ込まれ、今日の食糧確保を担っています。

 その効果や安全性に関しても、膨大なデータが蓄積され、公的機関が評価しています。

 日本でも農業分野では、作物ごとに精緻な雑草管理プランが確立され、ほとんどの農家はそれに従って使用しています。農業人口が減っているにもかかわらず、作物の収量を確保できているのは、除草剤によって農業生産性が大幅に向上したからです。

 日本の非農耕地・緑地では、根拠のない偏見にさらされ、除草剤の持つ本来の機能がまったく発揮されていないのが実態です。

「除草剤は悪いモノ」は偏見

伊藤(操) 一般の人たちに、「機械のよる刈り取りが良くて、除草剤は悪いもの」というイメージが広まってしまったのは、たいへん残念なことです。ただ、ゴルフ場や鉄道の線路沿いのように非農耕地でも、除草剤を主体にした雑草管理プランが確立し、効率的に運用されている例もあります。

 本来、除草剤は機械除草の代替ではなく、まったく機能が異なります。除草剤の良さは、選択的に特定の雑草を防除できることです。

図1●公園に繁茂するカラスノエンドウ
(出所:緑地雑草科学研究所)

 その例を、カラスノエンドウで紹介しましょう。この植物は、日本各地で春になるとよく生える雑草です(図1)。放っておくと1mを超えるほど背が高くなるので公園などでは除草の対象になります。しかし、冬の間にイソキサベン・フロラスラムという化学薬剤で土壌処理しておくと、選択的に防除でき、生えてきません。

図2●除草剤を使わずに刈り取ったケース
(出所:緑地雑草科学研究所)
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 下の画像は、事前に土壌処理せずに放置し、4月にカラスノエンドウを機械除草したものです。刈った分はすべて廃棄物になります(図2)。一方、1月に除草剤(イソキサベン・フロラスラム)で土壌処理した後の4月には、カラスノエンドウは生えません(図3)。地表面に背の低い草が生えますが、カラスノエンドウはまったく発芽しません。メガソーラーの雑草管理でも、このような背の高い雑草を選択的に防除する手法は有望に思います。

図3●1月に土壌処理して選択的に防除したケース
(出所:緑地雑草科学研究所)

「選択的な管理」が可能に

――除草剤による雑草管理を検討するとして、まず知っておくべきことは何でしょうか?

伊藤(幹) 除草剤による雑草防除は、大きく2つのタイプがあります。「Total Vegetation Control(TVC)」と呼ぶ「無選択的な管理」です。雑草をすべて一定期間、防除できる薬剤を用いる方法です。これは芝生や樹木など植栽植物のある場所には適用できません。

 もう1つが、先ほどカラスノエンドウを例に紹介した、「選択的な管理」で、「Target Weeds Control(TWC)」と呼ばれます。雑草植生のなかでも、特定の「問題雑草」のみを除去する場合や、植栽植物のある場合に適用します。

――メガソーラー敷地内の雑草管理にはどちらが適しているのでしょうか?

伊藤(幹) メガソーラーの敷地内に生える植物によって変わってきます(図4)。海岸沿いの工業用地などの平地に太陽光パネルを並べたような場合は、用地内の植物は雑草だけ、ということもあり得ます。ただ実際は、そうでないことも多いと思います。

図4●メガソーラー敷地内にある植物と管理
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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 起伏のある土地や山間などでは、土壌の保全や景観維持、緑化の観点から、芝生などの被覆植物を植えたり、防風や景観維持のため、樹木を植栽したりすることもあります。このように雑草以外の植物を残す場合、選択的な管理になります。

 選択的でも、無選択的でも、除草剤の使用には、ある程度の専門性が必要に思いますが、特に「選択的な管理」の場合、高度な専門知識が必要になるため、処方箋を出す医者のような存在が不可欠です。耕作地では、作物ごとに確立されたマニュアルがあり、農協を通じて除草剤を購入できますが、メガソーラーの場合、まだマニュアルがなく、適切な助言を得られる専門家が身近にいないことが、大きな課題です。

雑草の発生自体を抑える

――メガソーラーの雑草管理に除草剤を導入する場合、どんな立地でも、共通して考慮すべき注意点があれば、教えてください。

緑地雑草科学研究所の伊藤幹二・理事(マイクロフォレスト リサーチ代表)
(出所:日経BP)

伊藤(幹) 除草剤の選択と使用にあたっては、すでに述べたように、どんな雑草の防除を目指すのか、という基本的な目的に加え、環境景観、作業性、経済性を考慮して、「最良管理慣行」を策定することが大前提になります。

 その上で、以下の6点は、メガソーラーに共通したガイドラインとして挙げられます(図5)。除草剤を使う場合、まず、農薬取締法に基づいて登録された薬剤を選ぶことが大前提になります。決められた基準で使えば安全であると国が評価したものです。

図5●メガソーラー敷地内における除草剤使用のガイドライン
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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 使用する時期については、「雑草の発生前から発生初期」が基本です。生育期の使用は、標的雑草防除を除いて行うべきでありません。具体的には、年1回、冬期の使用を基本とし、補正的な使用以外では、春夏期の使用は避けるべきです。

 要するに発生自体を抑えてしまうことが重要です。すでに大きく生育した雑草に対して、機械除草の代わりに除草剤を使っているケースが目に付きますが、これだと茶色く枯れた雑草が景観を損ね、廃棄物の処理にコストがかかる場合もあります。

 また、1つの薬剤を敷地全面に散布するような手法も避けるべきです。メガソーラーの敷地といっても、平地や法面、フェンスのある境界周辺、被覆植物の有無などによって、防除対象となる雑草の種類が異なります。1つの薬剤をすべての場所で使うような手法は効果に限界があり、何らかの問題が生じます。

 こうした視点から除草剤を選択・使用したうえで、年1回、場所ごとに雑草の発生状態をモニタリングし、雑草の種類が変わっていくに従い、薬剤を変更します。同じ除草剤を長期間、使い続けることは好ましくありません。

雑草は「地下」で長生き

緑地雑草科学研究所の伊藤操子・理事(京都大学名誉教授)
(出所:日経BP)

――ひと口に雑草と言っても多くの種類があります。雑草植生の変化に応じて、除草剤を変える必要があるのですね。

伊藤(操) 雑草は、分類学的にいうと、キク科とイネ科が多く、生活史としては一年生と多年生、繁殖様式としては種子繁殖と栄養繁殖、生育周期としては冬雑草と夏雑草があります。これらの違いに基づき、除草剤の種類、処理方法や時期を決める必要があります。

――10MWを超えるような広大な面積を持つメガソ-ラーの場合、伸びた雑草を刈り取る先から、最初に刈った場所にまた雑草が生えてくる、とのため息も聞かれます。薬剤による除草でも、そうしたことになりませんか?

伊藤(操) 機械除草の場合、「刈っても、刈っても生えてくる」のは、雑草の「繁殖戦略」に効果的に対抗できていないからです。その戦略とは、「地下」です。

 雑草の多くは、短期間に小粒で多数の種を付けます。これらが地面にばらまかれ、種子の状態で休眠しています。また、多年生の雑草は、地下深くに広く栄養繁殖器官を張っていて、休眠芽があります。つまり地下は繁殖体の宝庫で、雑草は地下で長生きしています。

 機械除草で地上部分の茎や葉を刈り取っても、地下で生きている雑草を根絶できません。むしろ、刈り取りを繰り返していくと、一年生雑草が衰退し、より大型の多年生雑草を優勢にする可能性もあります。多年生は地上部分を刈るほど、防衛的に地下の栄養繁殖移器官が広がっていく傾向もあります。

 除草剤であれば、こうした雑草の繁殖戦略にも対抗できます。土壌処理剤の土壌残効性を利用すれば、一定期間、雑草を発生させないことも可能です。また、地下部への移行性の高い薬剤を使えば、多年生雑草の地下からの再生を阻止できます。

年1回の冬期処理が基本

――メガソーラーの雑草管理プランと言っても、場所や目的、防除したい雑草の種類などによって、除草剤が変わってくることは理解しました。最終的には専門家の知見が必要としても、代表的な除草剤を示すことはできますか?

伊藤(幹) メガソーラーに関連した場面や用途を14に分け、代表的な除草剤を挙げましたので、参考にして下さい(図6)。ほとんどの場合、年1回の冬期処理が基本になります。

 繰り返しになりますが、除草剤による雑草管理は、人の慢性病の治療と似ており、診断によって適切な薬剤を選択し、投与・モニタリングの繰り返しになります。それは単なる機械除草の代替ではなく、長期的に雑草管理を単純化する手法です。その結果、雑草による被害・損失額と薬剤使用コストの総和を最小化するのが最終的な目的です。

図6-1●メガソーラー施設・平面裸地の雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-2●メガソーラー施設・傾斜地法面の雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-3●メガソーラー施設・砕石下などの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-4●メガソーラー施設・目地などの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-5●メガソーラー施設・フェンスなどの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-6●メガソーラー施設・植込みなどの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-7●メガソーラー施設・街路樹などの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-8●メガソーラー施設・芝生などの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-9●メガソーラー施設・幼木などの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-10●メガソーラー施設・植栽シート下の雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-11●メガソーラー施設・被覆植物の雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-12●メガソーラー施設・中高木の雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-13●メガソーラー施設・花壇などの雑草防除に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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図6-14●メガソーラー施設・難防除雑草類の選択的処理に適した除草剤
(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
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