今夏も卸電力市場の価格が高騰している。激しい価格変動に悩む新電力は、価格リスクをどうヘッジしたらいいのか。夏場や冬場に毎年のように訪れる高騰を予測し、的確に対応できる新電力だけが利益を確保し、生き残ることができる。

 日本卸電力取引所(JEPX)における今冬の価格高騰は、多くの新電力に深い傷あとを残した。価格高騰による利益喪失の程度が甚大で、事業撤退を考える新電力も現れるほどだ。

 そして年間のピークである夏場が再びやってきた。7月24日には西日本のエリアプライスが99円99銭の市場開設以来の最高値を記録。翌日には100円を突破した。新電力は市場価格の高騰にどのように対応すればいいのか。

電力の市場価格は予測できる

 100円という価格をピタリと当てることができなかったとしても、実のところ、JEPX価格を予測するのは、さほど難しいことではない。しかし、JEPXの高騰を数カ月前に予見できていたという新電力は少ない。これは、JEPX市場の構造を正確に理解していないことに要因があると考える。

 まず、大前提として、多くの新電力はJEPX価格を予測しようと努力している。JEPX価格の変動が新電力の事業収支に与える影響を考えれば、それは当然のことだ。需給管理業務を自ら行ったり、他社の需給管理まで手がけるバランシンググループの親(代表事業者)をやるような新電力であれば、市場予測の専門の担当者がいることも珍しくない。

 しかし、市場予測の担当者であっても需給管理業務の経験値やエネルギー業界の知識に差があり、事業者ごとに予測体制に大きな違いが見られるのも現実だ。価格を決定する複数の要素を組み合わせながら複数名で討議を重ねる新電力もあれば、電力事業に比較的明るい人材が1人で担当している新電力もある。

 後者の場合、予測手法は得てして我流になりがちで、属人的かつ精度向上の機会を持ちにくいという問題がある。

 JEPX価格の高騰は定期的に訪れる。新電力は地震などの災害と同様、JEPXにおける価格高騰の可能性を的確に把握し、適切に対応する必要がある。JEPXの高騰が絶対的なリスクとなるか、あるいは相対的にチャンスとできるかは、新電力の生残りを左右すると言って過言ではない。

 JEPX価格にはおよそ次の要素が影響している。電力消費量の増減要因である電力需要。JEPXに電力を投入する要素となる電力供給(発電)。そして、需要にも供給にも影響を与える気象要因である。これら3つの要素の相関を考慮しながら、JEPX価格を予測するのである。

JEPX価格は3つの要素で決まる
JEPX価格は3つの要素で決まる
電力の市場価格の影響要因(出所:著者作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 まず、需要要素を見ていこう。日本の電力需要は、長期、中期、短期、超短期の4つの視点で傾向を把握することができる。だが、長期、中期については、JEPX価格を予測する上では熱心である必要はない。数年で価格の決定要素自体が変わっている可能性が高いからだ。

価格予測は「短期」と「超短期」が重要
価格予測は「短期」と「超短期」が重要
電力需要に影響する要因(出所:著者作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、高齢社会白書には日本の人口が2030年には今より5%程度減少するとある。しかし、その頃の電力供給の状況は全くの未知数である。JEPXに関する制度変更はもとより、原油やLNG(液化天然ガス)の価格、原子力発電所がどれだけ再稼動しているかも不明だ。