「AI(人工知能)の民主化」。センサーが取得した膨大なデータをクラウドに蓄積し、AIで解析して現場で役立てる。今、あらゆる産業界で活用に向けた実験や、一部で導入が始まっているAIだが、スポーツ界も例外ではない。

 日本でもここ数年で、AIを活用したスポーツ関連のサービス開発の動きが活発化してきたが、製品化や現場への導入という点では欧米の後塵を拝している。それは、米マサチューセッツ工科大学のビジネススクール(MIT Sloan School)が主催する世界最大級のスポーツ産業カンファレンス「MIT Sloan Sports Analytics Conference 2018」(MIT SSAC2018、2018年2月23~24日開催)でもはっきり確認できた。

 端的に言うと“厚み”が全く違う。MIT SSAC2018では複数の企業がAIを活用したスポーツ向けサービスを出展したほか、米プロバスケットボールNBAのフィラデルフィア76ersの元監督などを交えた「AIは答えなのか(Is AI the Answer?)」と題したパネルディスカッションが開催されたり、機械学習などAI技術を活用したスポーツ関連の研究論文が多数披露されたりした。

スポーツ関連の新しいサービスが数多く出展されたコーナーの様子
スポーツ関連の新しいサービスが数多く出展されたコーナーの様子
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NHL24チームが採用

 ここでは、MIT SSAC2018に出展されたAIを活用したサービスを2つ紹介しよう。一つは、カナダ・モントリオールに拠点を置くベンチャー企業SPORTLOGiQ(スポートロジック)が開発した、AIを活用したスポーツ解析サービスだ。モントリオールは4つの大学の集積地で、AIの研究が盛んなことで知られる。同社の基盤も、ローカルのAI人材だ。

 SPORTLOGiQが出展したのは、カナダの国民的スポーツのアイスホッケー向けで、試合の映像から画像認識と機械学習ですべての選手の位置や移動、プレー内容を自動で取得してデータ化するソフトウエアである。チームの戦術分析に必要なこうしたデータは、これまではアナリストが実際に映像を見て手動で記録する必要があったという。

SPORTLOGiQが開発した、アイスホッケーの試合の映像から画像認識と機械学習ですべての選手の位置や移動、プレー内容を自動で取得してデータ化するソフトウエアの画面例
SPORTLOGiQが開発した、アイスホッケーの試合の映像から画像認識と機械学習ですべての選手の位置や移動、プレー内容を自動で取得してデータ化するソフトウエアの画面例
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 アリーナに設置した1台のカメラの映像から、選手の位置を記録して2次元のリンク上にプロット。さらに選手の骨格情報を画像認識で検出し、機械学習でショットやパス、ボール保持などプレー内容を判定する。1ゲームで4000以上の事象をトラッキングする。こうしたデータを解析して、チームおよび放送局向けに提供している。

 現在、北米プロアイスホッケーNHLの全31チーム中24チーム、40のプロスポーツチーム、7つのプロスポーツリーグ、5つの放送局にサービスを提供しているという。アイスホッケーで得た技術や知見をベースに、製品をサッカーにも展開。米国や欧州のプロサッカーチームと開発を進めている。攻守の切り替えや相手へのプレッシャーのかかり具合の評価などが自動でできるとしている。