実用化に向けてのもう1つの課題が「精度」だ。現状では、トップリーグのようにグラウンドの芝の状態が良く、ユニフォームの色もはっきり区別できる好条件で撮影した映像では、2次元座標へのマッピングで2m弱の精度を確保している。これは手作業でマッピングする既存の方法よりも優れているが、改善の余地はある。

 田中氏によると「精度は芝の状態など映像の“質”に左右される」。精度を高めるためには、ディープラーニングでどの程度の数の画像を読み込ませればいいのか、また画像にどのような下処理を施せばよいのかなど、さらなる試行錯誤が必要だという。

 ちなみに、ディープラーニングには大量の映像サンプルが必要だ。今回の開発では、まず訓練用として人間を認識させるのに1万1000枚、さらにラグビー選手を認識させるのに1000枚の画像が必要だったという。ここからがスタートで、例えばタックルなど特定のシーンの画像を大量に読み込ませて学習させた。東芝では、クラウドソーシングを活用することで、特定シーンの画像を大量に集めたが、今後タグの種類を増やすのは容易な仕事ではなさそうだ。

熟練の技能継承に適用も

 東芝は今後、「画像・音声解析AI」の要素技術をラグビーで鍛え、他のスポーツ分野や他産業に展開する考えだ。

 スポーツ分野では、放送局やスポーツデータ専門業者などへの提供が考えられる。ラグビーでは「ラック」や「モール」など一般のファンには違いが分かりにくいプレーが多い。それをテレビ放送でリアルタイムに画面に表示したり、選手やボールの軌跡をプレーごとに表示したりすればエンターテインメント性を高められる

 製造業への展開も視野に入れている。多人数の動きを同時に認識する技術は、工場の動線管理に応用できそうだ。「モール」など特定のプレーをAIで検出する技術は、作業内容の検証や作業時間の測定、さらに熟練技術者の動作検証を通じた技術継承に適用できる可能性がある。このほか、リハビリ施設や障害者の動作分析など、医療分野での活用も検討している。

 企業がスポーツを支援する理由として、これまではCSR(企業の社会的責任)とPRの2つの目的が主流だった。これからは「技術の実験場」という役割が、重みを増していくかもしれない。