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スポーツIT革命の衝撃

日本柔道、劇的復活の舞台裏 データ活用で世界に勝つ

「スポーツアナリティクスジャパン2016」から

2017/03/14 05:00

浅野智恵美

「日本柔道界には、非常に強い固定観念があった。まずはそれを壊し、その上で今の時代や柔道の本質を考え、何をやるべきか決める必要があった」――。日本柔道界の“非常事態”とも言えるロンドン五輪での惨敗から4年後。金メダル2つを含め、全階級でメダルを取ったリオ五輪は、「日本柔道の復活」を告げる歴史的快挙だった。そのリオ五輪で全日本柔道監督として指揮を取ったのが井上康生氏だ。

 日本スポーツアナリスト協会が主催する「スポーツアナリティクスジャパン2016」(開催は2016年12月17日)で、「柔道ニッポン復活への道標 〜データの活用と勝負の分かれ目〜」というテーマのトークセッションにに登壇した井上氏が、復活の舞台裏やデータ活用について語った。司会は、日本スポーツアナリスト協会の千葉洋平氏。

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ロンドン五輪の惨敗から得たもの

 千葉氏が「監督に就任して、まず何から変化を起こそうと思ったか」と質問を投げかけると、井上氏は監督就任時をこう振り返った。

「私が監督に就任したのは、柔道が五輪に採用されてから初めて金メダルを逃したロンドン五輪の後。それは日本柔道界にとって、“あってはならない事態”でした。就任にあたって、まず私が取り組んだのはロンドン五輪の敗戦原因を考えること。そのなかで見えたのは、我々は過去の栄光にすがっていたことです」

 日本柔道界には“伝統の重視”が固定概念としてあり、それが練習にも表れていたと井上氏は語る。

 「日本の選手たちの練習量は間違いなく世界トップクラス。キツイ・苦しい・ツライ、そういった練習がメインでした。どんなに時代が変化していこうが、根本的に持っておかなければならない強さ・柱というものは必要だと思います。柔道界における柱とは何かといえば、やはり組んで、投げて、抑え込む。いわゆる「一本」を取る高い技術です。ただ、試合は生き物で、細かい技術を持っておかなければ勝っていけません。長い練習、キツイ練習だけでそれが身につくかといえば、そうではないんです」

練習の効率化を勝利のカギに

2008年〜2011年にスコットランドに留学した井上氏。留学で得た経験を活かして日本柔道界を牽引する
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 現役を引退後、井上氏はスコットランドへ留学している。そこで見た日本との明らかな違いは、練習の効率性にあったという。

 「スコットランド留学では、いい意味で自分の無力さを実感しました。海外では体力トレーニングひとつにしても、すべてにおいて日本との違いを感じました」

 「試合で“こういうことは起こり得る・想定できる”という内容を細かくわけて、徹底的に突き詰めていくような練習をしていました。もちろん、効率を求めるだけでは本質的な強さを身につけられません。実際の試合で起こり得る“想定外”への対応力をつけるには、非効率的・非科学的な練習も大切です。ただ、世界で戦っていくためには個の力では限界があり、総合力を高めることが必要です。海外ではスポーツ栄養やトレーニングなど、それぞれの分野のスペシャリストの方に力を借りながら、チームとして戦っているのです」

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