具体的には、モーションキャプチャー用スーツを着込んだ投手と打者が実戦形式で対決。体の動きとして、各部位に生じた加速度から速度や位置を算出した。打者は、アイトラッカーも装着した。

 投球に対して打者の身体部位(腕、体幹、下半身)の相対速度がどのように変化するかを計測したところ、チェンジアップを打てる打者は投手がボールをリリースしてから0.25秒の時点でタメを作って対応していることが分かった。

 脳内で情報処理を開始してから実際に動作を始めるまでの運動応答に0.2秒程度がかかるため、リリース後0.05秒までで「チェンジアップであることを、ボールの軌道もしくは投球フォームから予測してタメを作っている」(柏野氏)。逆にタメを作れていない打者は、「投球フォームなどから球種を見極める」能力などの取得が必要になる。

バッターも「遠山の目付け」が良し?

 では、打者は球種をどのように見極めているのか。詳細は割愛するが、NTTではアイトラッカーで得られた眼球運動から打者の「注意範囲(特定位置に集中しているか、広い範囲をぼんやり捉えているか)」を推定。注意範囲とパフォーマンスの関係性を検証する実験を進めている。

 これまでに「注意範囲が広い選手は、判断の正確性(球種判定の成績)が高く、反応のタイミングは遅い」ことなどが分かっているという。ここで、反応のタイミングが遅いことは決して悪いことではなく、より長い時間ボールを見られるので正確性が高まる、としている。

 この結果は、さまざまなスポーツや武道などの達人がボッーと見ることの重要性を指摘しているのと関係している。剣術では、相手の剣をじっと見ていたら隙ができるため、遠くの山を見るような「遠山の目付け」が“良し”とされる。今回の球種判定実験は、打者においても遠山の目付けがプラスに作用することを示唆しているのかもしれない。

(次回に続く)