2017年の天皇杯(JFA 全日本サッカー選手権大会)で持ち前のフィジカルを武器に快進撃を見せ、多くのサッカー関係者やファンに衝撃を与えたいわきFC(東北社会人サッカーリーグ)。「日本のフィジカルスタンダードを変える」という信念を持つ同クラブは今、「遺伝子データ」などさまざまなデータを駆使して新たな革命を起こそうとしている。2019年1月26日に開催された「スポーツアナリティクスジャパン2019(以下、SAJ2019)」に、いわきFCのチームドクター・齋田良知氏と、同パフォーマンスコーチ・鈴木拓哉氏が登壇し、いわきFCの革命の内幕を語った。その要旨をレポートする。

疲労度の数値化で受傷歴を作らせない

 アスリートが高いパフォーマンスを発揮するためにはケガの予防も不可欠だ。ではケガのリスクファクター(危険因子)とは何なのか。齋田氏は「受傷歴が最大のファクター」だと話す。

いわきFCのチームドクター・齋田良知氏。ジェフユナイテッド市原・千葉チームドクターやなでしこジャパンのチームドクターを務め、2015〜2016年にはイタリアセリエA・ACミランにも帯同した経験を持つ。順天堂大学医学部整形外科学講座 講師も務めている
いわきFCのチームドクター・齋田良知氏。ジェフユナイテッド市原・千葉チームドクターやなでしこジャパンのチームドクターを務め、2015〜2016年にはイタリアセリエA・ACミランにも帯同した経験を持つ。順天堂大学医学部整形外科学講座 講師も務めている
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 「一度捻挫をした選手はまた捻挫をしやすくなりますし、肉離れや靭帯損傷なども同様です。そうした受傷歴が生まれてしまうこと自体が、次のケガの最大のリスクファクターになってしまうのです。つまり、いかに最初の受傷歴を作らないかが非常に重要です」

 「メディカルスタッフの役割は『いかにケガを治療するか』にあると思っている方もいるかもしれませんが、それよりも重要なのは、アスリートのファースト・インジャリー(最初のケガ)を予防し、ケガなくトレーニングを続けられるようにすることなのです」(齋田氏)

 受傷歴を作らないためにいわきFCが取り組んでいるのが、「疲労度の数値化」である。次の4つの項目を定期的に計測し、各数値の状況によって選手の疲労度を数値化。そのデータの状況によってトレーニングの負荷を変えているという。

<疲労度を数値化するための計測項目>

  • (1)尿比重から脱水の状態を確認
  • (2)長座位前屈から筋疲労の状態を確認
  • (3)Vertical jump(垂直跳び)で協調運動への対応を確認
  • (4)眼調整力から神経疲労を確認

 「疲労度を確認するのに他の指標もあるかもしれませんが、この4つは選手たちだけでも短時間で計測でき、しかも再現性が高いので、いわきFCではこれらを測ることで疲労度を数値化しています」(齋田氏)

 「年齢や性別、受傷歴などは変えられないリスクファクターです。一方、選手の身体的特徴は変えられるリスクファクターです。疲労度の数値化によって変えられるリスクファクターは変えていく。そうすればトレーニングで適切な負荷を掛けられるようになりますし、フィットネスもどんどん高めていけるようになると考えています」(同氏)

疲労度を数値化するためにいわきFCで計測している4つの項目。選手たちは練習前に各項目を計測しているという
疲労度を数値化するためにいわきFCで計測している4つの項目。選手たちは練習前に各項目を計測しているという
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