本コラムは、数々のイノベーションで広く知られる3Mグループにおいて、大久保孝俊氏が体得したイノベーション創出のためのマネジメント手法を具体的に紹介します。大久保氏は、自身で幾つものイノベーションを実現しただけでなく、マネジャーとして多くの部下のイノベーションを成功に導きました。

前回:「ありがとう」を生むのが真のイノベーション

 ここまででイノベーションの設計図の詳細に入る前段階として、「イノベーションとは何か」について解説した。今回から2回は、もう1つの大切な前提である「イノベーションにおけるマネジメント」について共通認識を得たい。

図1 イノベーションの4つのステップ
図1 イノベーションの4つのステップ
これら4つのステップのどれか1つが欠けてもイノベーションは達成できない。特にアイデアは技術者のやる気と自主性が不可欠となる。
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 マネジメントは、日本語で「管理」と訳されることが多い。最も分かりやすいのが目標管理だ。例えば、工場では、1日当たりや1カ月当たりの生産台数、品質(不良率)、コストなどの目標が設定されており、マネジャーはそれを達成するために作業者や設備の稼働状況を管理していく。

 一方、イノベーションにおけるマネジメントは、こうした目標管理のアプローチとは大きく異なる。管理というよりもコーチングに近い。主役は実際にイノベーションに挑戦する技術者などの現場の担当者だ。マネジャーの重要な役目の1つは、彼らを支援することなのである。

やる気と自主性を引き出す

 イノベーションを創出するためには、現場の技術者などの頭の中にある「玉石混交の多数のアイデア」の中から、顧客の満足に貢献するものを見いだし、「それを高品質で低コストで商品化する具体的なプロジェクト」を立ち上げた後、「事業として展開して顧客満足と自社の利益を実現」しなければならない(図1)。