不動産賃貸だけではまかなえない

 我々が構想する複合型スマートスタジアムのイメージはこんな感じです。株主であるLDH JAPANに所属するEXILEのダンス教室やジム、スポーツ分野でさまざまな取り組みをしているドイツSAP社のデータセンター、ホテル、保育所、さらに愛媛大学医学部の診療所などが併設されます。現在、スマホのアプリで健康管理サービスを提供する企業とも話をしています。なお、ショッピングと飲食は隣接するイオンモールに連携をお願いする計画です。

 年に1回、さまざまな競技のトップアスリートが来て、健康状態をチェックし、データを取得しながらトレーニングをし、温泉に入って帰っていく。トップアスリートに向けたJISS(国立スポーツ科学センター)の支所のような施設にしたいと考えています。

 ところが、いろんな研究会や協議会で検証しましたが、どう計算してもランニングコストを不動産の賃貸料だけではまかなえないことが判明しました。我々は「ありがとうサービス.夢スタジアム」の建設に際して、土地を今治市から無償で借りましたが、資金は自前で調達しました。1万5000人収容の複合型スマートスタジアムも同様のスキームを想定しています。一部借入れをするとしても、大半は投資してもらうことになります。そうなると、何らかのリターンを生む必要があります。

2017年9月にオープンした5000人収容の「ありがとうサービス.夢スタジアム」(写真:FC今治)
2017年9月にオープンした5000人収容の「ありがとうサービス.夢スタジアム」(写真:FC今治)
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 リターンとしてはお金という直接的なものと、スタジアムがあることによって街が元気になるという「目に見えない資本」があります。この資本を生み出すのが交流人口の増加です。だから複合型スマートスタジアムにはマンションも併設し、いろんな世代が住み、そして集まる場所を創ります。とにかくリターンができるスキームを作り、大きな企業などに納得して投資してもらうことが大事だと考えています。

 街の活性化のためには若い人たちが必要です。交流人口が増えれば仕事は後からできあがります。我々は「バリチャレンジユニバーシティ」という社会変革のためのアイデアを創出するワークショップを2016年から開催しています。私が実行委員会学長を務め、アドバイザリーボードには15人の各界の著名人に参加していただいています。

 ワークショップの参加者を募集するに当たって、1年目は「もしあなたがFC今治のオーナーだったらどんな複合型スタジアムを造ってこの街を活性化しますか」というお題を出しました。400字の原稿を書かせてインターネット上で2週間程度募集しました。すると、公募100人のところに460人もの応募があり、東大、京大など有名大学からの応募もありました。当日は今治市内の高校生も参加し、素晴らしいイベントになりました。こうしたイベントなどを通じて交流人口を増やしていきます。

すごい危機感を持っている

 経営者になってから約3年。サッカーの監督をしているときは「面白いサッカーをして強ければ文句ないだろ」と周囲に話していましたが、今は「おまえ、面白いサッカーをして強いだけじゃダメだろ」と言っています(笑)。経営について何も知らないままやって、失敗を経験することによって考え方が変わりました。

 幸い、これまではほぼロードマップ通りに進んでいます。9月にスタジアムがオープンし、そこが5000人の観客で満員になる“快感”も味わいました。ただ、「これから先は違う」とすごい危機感を抱いています。

 2018年度の予算が7億円になり、従業員は契約・コーチを含めて50人にまで増えました。もはや、個々の社員が何をやっているのかも見ていられなくなりました。個人事業から企業に変わっていかなくてはならない。そのために、会社として評価制度、給与体系、労務管理などをきちっとしなくてはならない。ものすごく大きな転換期に差し掛かっています。

 今治.夢スポーツは第二創業期を迎え、これまでとは異なる会社に変わっていかなくてはならない時期にきている。これを乗り切らないといけない。複合型スマートスタジアムについては、来年1年間をかけて検討を進め、2019年から着工し、2~3年後にできているイメージを持っています。

 仮に2018年シーズンにJFLで優勝したら、2019年シーズンにはJ3に昇格し、2019年6月にはJ2への申請をしなくてはいけません。申請にはJ2対応の1万人規模以上のスタジアムを計画しているか、建設している必要があります。つまり、現在の5000人スタジアムでは対応できないわけで、その時点で少なくとも1万5000人スタジアムを工事予定ぐらいまでは持っていきたいと考えています。なお、1万5000人スタジアムの建設後は、5000人スタジアムを「レジェンドスタジアム」として、主に育成で使っていきます。