―― 欧米のスタジアムでIT導入が進んだのはいつごろからでしょうか。また、シスコ社ではいつごろからスポーツ向け事業を展開し始めたのですか。
鈴木 米国では1960年代にできたスタジアムの新設ラッシュが、1990年代後半から2000年代前半ごろにかけて起き、そのときにITが導入され始めました。まずWi-Fiを完備し、次にサイネージを設置しました。今ではスタジアムのWi-Fiに接続したスマホにアプリを経由してサービスを提供したり、サイネージに試合の映像や広告を表示することが一般的になっています。
こうした取り組みによって、米国のスポーツビジネスは収益が拡大しています。例えば野茂英雄氏が米メジャーリーグ(MLB)に移籍した1995年当時は、MLBと日本のプロ野球(NPB)の売上規模に大差はなかったのですが、今では5倍以上の開きがあります(MLBは年間1兆円超)。
シスコ社は、スタジアムのネットワーク環境の整備というビジネスからスポーツ業界に参入しました。「いろんなものをつなぎます」という基本的な立ち位置は変わっていませんが、今ではビジネスを拡大してサイネージソリューションや、アプリを通じた各種サービスの提供に広げています。これまで欧米を中心に、世界30カ国以上、約300カ所のスタジアム・アリーナにシスコ社の製品・サービスが導入されています。今では大きなビジネスになっているので、米国本社にはそれを推進するディビジョン(部門)があります。
―― 米国における“スマートスタジアム”、つまりITを導入して先進的なサービスを提供している事例を教えてください。
赤西 シスコ社の顧客でサイネージを最も多く導入しているのは、米プロアメフトNFLの「ダラス・カーボーイズ」が本拠地とする「AT&Tスタジアム」(テキサス州、収容8万人)で約3000枚です。他にも例えば、MLB「ニューヨーク・ヤンキース」の「Yankee Stadium」(ニューヨーク州、5万4000人)は約1000枚、米プロバスケットボールNBAの「ブルックリン・ネッツ」の「Barclays Center」(ニューヨーク州、1.8万人)は約800枚設置しています。ここまで行くとスタジアム・アリーナに“どこでもライブ”の一体感が出て、効果的な演出が可能になります。そうなると、観客もお尻がちょっと痛くなったので席を外してみようと思うようになります。
鈴木 米国ではサイネージにおける広告表現が多彩です。例えば、NBAの「ボストン・セルティックス」と米プロアイスホッケーNHLの「ボストン・ブルーインズ」が本拠地とする「TD GARDEN」(マサチューセッツ州、収容1.8万人)には、シースルー型ディスプレーを使ったサイネージが天井からつり下げられています。そこにチームの旗がなびくような映像を送ったりして、観客の関心を引くのです。
また、TD GARDEN内の壁に埋め込まれたサイネージには、試合の映像がリアルタイムで配信され、そこに動画広告がオーバーレイ表示されます。広告表現や配置を工夫することで、マネタイズができています。米プロサッカーMLSの「スポルティング・カンザスシティ」が本拠地とする「Children's Mercy Park」(カンザス州、約1.8万人)では、数百枚のサイネージの導入によって、広告収入が従来比4倍に増えたそうです。