開幕に先立ち、JSRAは青山ラグビーパークを支援するサポーター制度を立ち上げ、サポーターとなる自治体や団体、商店街、個人などの募集を始めた。試合の前後にも人が集まり、会話を楽しめる社交場としてラグビー場を進化させる。支援金は、そのためのコンテンツ制作に使用していくという。
ラグビーパーク構想の取り組みを引っ張るのは、プロ野球「横浜DeNAベイスターズ」の社長として球団の黒字化、横浜スタジアムのボールパーク化を進めた池田純氏だ。今回は、池田氏に聞く「青山ラグビーパーク」化構想の狙いの後編。野球とラグビーの違い、サンウルブズのポテンシャルについて語ってもらった。
少ないホームゲーム、メリットも大きい
―― サンウルブズのすごさは、日本のチームが世界の最高峰リーグで戦っていることだと話していましたが※、それが理由で逆にビジネス面で難しいところはありますか。
池田 よく言われるのは、ホームゲームが少ないという点です。6試合しかありません。確かに、ホームゲームが6試合しかないと、在庫リスクがあるのでグッズもたくさん作れない。野球のように試合が毎日あるわけではないので、世の中に伝えていくことにも難しさがあります。ただ、試合数が少ないという価値をメリットと捉えるか、デメリットにしてしまうかは運営する組織次第だと僕は思っています。
だから、3年目の今シーズンの大きな課題は組織づくりです。もっともっと顧客主義になって、ファンの方を向いて、組織を進化させていきたい。ルーティンやオペレーションではなく、どんどんお客さんのために面白くして、もっともっとファンを増やしたいと考える組織になっていく必要があると考えています。野球もそうですが、スポーツチームは放っておいてもシーズンがやってくるので、仕事をルーティンでこなすようになってしまいがちなんですね。
試合数の少なさはデメリットではあるけれど、メリットも大きいのではないかと僕は考えています。例えば、米国のプロフットボールリーグNFLは1シーズンの試合数が少なくても最高峰の人々が働いていて、観戦したらものすごく面白い。スーパーボウルは最高ですよね。試合数が少ないから、逆に1試合の価値がとても高いわけです。
ラグビーのファン層を考えたとき、秩父宮ラグビー場の2万人ほどのキャパシティーで1シーズンに6試合というのは、「全試合満員」を目指して、数年で成し遂げるにはちょうどいいのではないかと考えています。
―― 「満員にする」ということは、スタジアムの空気づくりも含めて、やはり重要なんですか。
池田 重要です。ただ、今シーズンのホームゲームの日程は3月、4月に詰まっているので集客しにくいところはあります。そういう日程の組み方も含めて、運営側もプロ集団になっていく過渡期にあるのだと思います。
プロのスポーツビジネスで大切なことは、「チームが勝つか負けるか」だけではありません。勝ち負けはもちろん重要ですが、経営が強くなって、スタジアムが満員になって、ファンが増えて、声援が増えるとチームは勝つようになっていくんですよ。だから、経営とチームの強さは両輪。それがプロスポーツのビジネスです。
サンウルブズの経営とチームが両輪で回っていくと、ラグビーというスポーツの景色が変わっていくと思うんです。
横浜DeNAベイスターズも、当初の運営は素人集団でした。それでも、お客さんが増えるのを実感し、お客さんの喜ぶ顔を見て、一人ひとりの担当者が1つずつ成功体験を積み重ねることで、「もっといろいろなことをやろう」と考える組織になっていきました。5年ほどで経営が黒字になり、チームはクラマックスシリーズに進出して、昨シーズンは日本シリーズでした。サンウルブズの組織も同じようになっていけばいいと思います。
ラグビーファンは優しいところがありますよね。「サンウルブズが生まれたおかげで、すごく感情移入して応援できる“おらがチーム”ができた」と言ってもらえるのですが、同時に「でも、チームがなくなってしまってもしょうがないよね」という話をされることもあります。それを聞いたときは、かなりショックを受けました。「こういう試合運営ではつまらん」「もっと、こういうイベントをやれ」といった、多少辛辣な意見や見方でファンからチームに喝を入れるくらいのことがあっていいと思います。人気はみんなでつくるものですから、ファンも一緒に成長してほしい。