ニュージーランドやオーストラリア、南アフリカなど南半球の強豪クラブが競うラグビーの国際プロリーグ「スーパーラグビー」の2018年シーズンが2月17日に開幕した。この国際リーグに日本から参戦するサンウルブズは、2月24日にオーストラリアのブランビーズと秩父宮ラグビー場で開幕戦を戦う。

 サンウルブズを運営するジャパンエスアール(JSRA)は2017年11月、2018年から5年間の組織スローガン「5(Go) beyond 2019」を掲げ、本拠地としている秩父宮ラグビー場周辺を「青山ラグビーパーク」として整備していく構想を打ち出した。

 この取り組みを引っ張る人物が、2016年までプロ野球「横浜DeNAベイスターズ」の社長を務め、球団の黒字化、横浜スタジアムのボールパーク化を進めた池田純氏だ。日本ラグビーフットボール協会の特任理事を務める同氏は、JSRAのチーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)に就任。ラグビーパーク構想を具現化すべく手腕を振るっている。池田氏に構想の狙いを聞いた。
(聞き手は、高橋 史忠=日経BP総研 未来研究所、内田 泰)
JSRAが公開した「青山ラグビーパーク」構想のイメージCG(画像:©JSRA)
JSRAが公開した「青山ラグビーパーク」構想のイメージCG(画像:©JSRA)
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大切なのは、ファンや地域と心を通い合わせること

―― 「青山ラグビーパーク」化構想を打ち出した狙いや、構想の方向性を教えてください。

池田 ラグビーのスタジアムが、野球のボールパークのように楽しい非日常の世界観、そういう空気を感じられる場所に変わっていく。それを実現すれば、ファンにもっと楽しんでもらい、ファンをもっと増やしていくことにつながると思います。「純粋にラグビーの試合を見に来てください」というだけではなく、ラグビーファン以外も楽しめる世界観をラグビーパークという形で今年から実際に打ち出していきます。

 構想を発表する際に公開したイメージCG(上の画像)には、かなりいろいろなものを詰め込みました。

 秩父宮ラグビー場の敷地に入ると、すぐに(サンウルブズのカラーである)赤色の世界観が目に入ってきます。スタジアムに入るまでの間のエリアでサンウルブズを感じてもらう色彩の演出(カラーコミュニケーション)です。そのエリアはパブのようになっていて、試合の前後にお酒を飲みながら大型モニターでラグビー関連の様々な映像を楽しめる。試合が終わってもすぐに帰るのではなく、ファンがお酒を飲んで盛り上がれる空間です。海外のラグビーの試合では、ファンがそういう盛り上がり方をしますよね。このほかにも、親と一緒に観戦に来た子どもたちがラグビーボールやラグビーの世界観に触れながら遊べるパークもあります。

 サンウルブズの2018年シーズンは、2月24日に秩父宮ラグビー場で開幕します。イメージCGにあるすべての内容を一気に実現することはできませんが、実際に足を運んでいただくと、CGの中にあるようなラグビーパークの姿を少しずつ感じてもらえると思います。

―― 主に秩父宮ラグビー場周辺のソフト面に手を入れて、ラグビーパークとしての環境を整えていくということですね。

池田 純(いけだ・じゅん)。ジャパンエスアール(JSRA) チーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)。1976年神奈川県横浜市生まれ。2000年に早稲田大学商学部卒業。住友商事や博報堂などを経て2007年にディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。2011年に横浜DeNAベイスターズ社長に就任。2016年まで社長を務め、横浜スタジアムのTOBの成立をはじめとする様々な改革で、年間観客動員数を5年間で1.8倍の194万人に、球団単体の売り上げを100億円超へと倍増し、黒字化を実現。大戸屋ホールディングスの社外取締役、日本プロサッカーリーグや日本ラグビーフットボール協会の特任理事なども務める
池田 純(いけだ・じゅん)。ジャパンエスアール(JSRA) チーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)。1976年神奈川県横浜市生まれ。2000年に早稲田大学商学部卒業。住友商事や博報堂などを経て2007年にディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。2011年に横浜DeNAベイスターズ社長に就任。2016年まで社長を務め、横浜スタジアムのTOBの成立をはじめとする様々な改革で、年間観客動員数を5年間で1.8倍の194万人に、球団単体の売り上げを100億円超へと倍増し、黒字化を実現。大戸屋ホールディングスの社外取締役、日本プロサッカーリーグや日本ラグビーフットボール協会の特任理事なども務める

池田 スタジアム自体のハード面に手を入れられれば、より多くのことができるでしょう。ただ、秩父宮ラグビー場は日本スポーツ振興センター(JSC)が運営している施設ですし、まずはソフト面から世界観を変えていくだけでも、スタジアムのラグビーパーク化を実現していけると考えています。

 サンウルブズには、様々なことをすべて具現化できる資金があるわけではありません。スーパーラグビーに参入してまだ3年目。売り上げが10億円ほどで赤字というのが現実です。

 やはり勝負事ですから試合の勝ち負けは大切で、選手にも投資しなければなりません。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチは「今年は5位以内を目指す」という目標を掲げました。日本でラグビーワールドカップ(W杯)が開催される2019年に向けてチーム力を高めていき、その後に優勝を狙えるような、さらに強いチームを目指しています。これからの5年がサンウルブズとしては勝負の期間です。

―― 恐らく、池田さんが横浜DeNAベイズターズで、横浜スタジアムのボールパーク構想を手掛けたときの資金に比べるとだいぶ少ないですよね。それでもラグビーパークは実現可能なんですか。

池田 ええ。資金面では、かなり大きな違いがあります。でも、スポーツの世界で大切なことは「心」だと思うんです。ファンや地域とチームがつながり、心を通い合わせる中で様々なことを伝えていける。資金は乏しいかもしれないけれど、多くの人々に足を運んでもらうことで、「サンウルブズは、理想図で提示したような世界を目指している」という思いを実際に伝えられると考えています。

 野球やサッカーは、プロスポーツとしてファンに楽しんでもらうために、多くのことに取り組んでいます。でも、「ラグビーは閉ざされた世界で、ラグビーファンだけが見てくれればいい。大きく変わろうという雰囲気がない」という話をずっと聞いていました。「子どもが楽しめる場所がない」「試合が終わった後に周辺の店が開いておらず、お酒を飲んだり、楽しんだりする場所がない」という声も耳にします。

 せっかく東京・青山という都心の一等地に専用のラグビー場があって、2019年には日本でラグビーW杯が開催される。2020年には、東京五輪でも7人制ラグビーの競技がある。僕は、ラグビーが日本のスポーツ文化の裾野を広げる大きなきっかけになると思うんですよ。