「スポーツアナリティクスジャパン2017(以下、SAJ2017)」(主催:日本スポーツアナリスト協会、2017年12月2日)では、「スタジアム・アリーナと街づくり、テクノロジーの向かう先は?」と題し、スポーツファシリティ研究所 代表取締役の上林功氏、フリーランスの街づくりプランナーである桜井雄一朗氏、SAPジャパン イノベーション オフィス部長 スポーツ産業向けマーケティング支援担当の濱本秋紀氏という、スタジアム・アリーナ改革や街づくりに関わる3人の識者、並びにモデレーターとしてスポーツマーケティングラボラトリー コンサルティング事業部 執行役員の石井宏司氏が登壇。今後、スタジアム・アリーナ改革を進めていく上でカギとなるものは何か、そのヒントが語られた。講演の要旨を2回にわたってお届けする。
日本のスタジアム・アリーナに魅力が欠けている理由
「選手たちの迫力あるプレーに熱狂し、大歓声が響き渡る場所」「日常から切り離された環境に身を投じ、普段は味わえない興奮を体験するために足を運ぶ場所」――。
スタジアム・アリーナとはどんな場所かと問われたら、スポーツ観戦が好きな人ならばこんな風に答えるのではないだろうか。今後どのようにテクノロジーが発達していこうとも、日常では体験できないことを味わえるのがスタジアム・アリーナの魅力であることは変わらない。
ただし、こうした体験をする環境が十分に整備されているかというと、決してそうではない。特に日本では、選手がプレーする場所と観客席が離れている、駅から遠い、屋根がない、トイレが少なく汚いなど「観戦体験」の質を低下させてしまっている施設も数多い。つまり魅力に乏しいスタジアム・アリーナが主流であり、ここを起点に「稼ぐ」という発想がない。なぜ、日本ではこのような状況になっているのか。モデレーターの石井氏は次のように説明する。
「既存の施設は税金を投入して建設をされているため、極力無駄を排し、より多くの市民が活用できるようにしなければなりません。例えば体育館であれば観客席やVIPルーム、トイレといったものよりも、4面でバスケットボールができることを優先しています。このこと自体は悪いことではありません。既存の施設が造られた時代には、スタジアムやアリーナで稼ぐ必要がなかったのですから。ただ、今、時代は変わろうとしています。これからはスタジアムやアリーナによって利益を上げ、かつそれらを街のシンボルにしようという動きが出てきています」(石井氏)
また石井氏は、これまでは1つの「ハコ」にしか過ぎなかったスタジアム・アリーナが「魅力的で稼げる街のシンボル」となるためには「ボールパーク化」「街づくり一体化」「Techスマート化」という3つがキーワードになると話した。
多様性の受け皿としてのボールパーク化
1つめのカギである「ボールパーク化」について、プロ野球・広島東洋カープの本拠地であるマツダスタジアムの設計を担当した上林功氏は、次のような持論を展開した。
「スタジアムというものを建築として見た場合、これは“モノ”なわけです。『モノ社会=産業化社会』ですので、その中ではモノを標準化、画一化することが求められます。一方で現代は『情報化社会』なので、個々人が情報を受け取り発信する、ある意味、多様性を許容しようとする社会です。そう考えると建築はひとつのモノとしてではなく、多様性を許容するための受け皿にならなければならない。つまり、街そのものになり得るものだと考えています」(上林氏)
産業化社会から情報化社会への変化に合わせるため、スタジアムのあり方も変化しなくてはならない。その最適な姿が、スポーツだけではない楽しさを享受できるボールパーク化であるというのだ。上林氏は続ける。
「例えばマツダスタジアムは、駅からカープロードという真っ赤な歩道が続いていて、そこを歩いて行くといつの間にかスロープとなり、さらに進むとスタジアムに到着します。ここが入り口、ここからが建物という区切りではなく、街から連続したものとしてスタジアムがあります」(同氏)
このように、スタジアム単体ではなく、その周辺のエリアも含めて設計していくことが、ボールパーク化には欠かせないという。
シンボル化に欠かせない試合以外での利活用
ボールパーク化は「街づくり一体化」というキーワードにもつながるものだ。では、街づくりとスタジアム・アリーナの関係性を考える上で必要なものは何か。スポーツを中核とした街づくりプロジェクトに携わる桜井雄一朗氏は、「スタジアム・アリーナを起点にした活動を増やすこと」だと話す。