2020年の東京五輪を控え、スポーツを産業化し、地方創成に結び付ける取り組みが各地で活発になっている。降雪や降雨、暑さといった気象条件を問わずに試合を開催できる「アリーナ・ビジネス」にも注目が集まる今、新たなプロスポーツ・ビジネス界をけん引すべく、満を持してスタートするのが男子プロバスケットボール「B.LEAGUE」(以下、Bリーグ)だ。

 自治体、行政と協力した地域密着による地元との連携を基盤に世界を見据えるプロスポーツを目指す——。そんなBリーグの発展のカギを握るキーマン、ジャパンプロフェッショナルバスケットボールリーグ(JPBL)の大河正明チェアマンにBリーグの持つポテンシャルや展望を聞くインタビューの後編をお届けする。(聞き手は、上野 直彦=スポーツライター)

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)
[画像のクリックで拡大表示]

―― 大河チェアマンは、「クラブは地元での存在感を示して、『地域にとって大切だ。公共財だ』と思われる存在でなければならない」と話していました。これを実現するために、各地域ではどのようなことに取り組んでいますか?

大河 地道に地域貢献活動のような「ホームタウン活動」を各クラブにやってもらうことが、地域の中での存在感を増すことにつながなると思いますね。日本サッカー協会では「夢先生」(現役のJリーグ選手やなでしこリーグ選手といったサッカー関係者などを、「夢先生」として小学校に派遣し、「夢の教室」と呼ばれる授業を行い、「夢を持つことの大切さ」、「仲間と協力することの大切さ」などを講義と実技を通じて子どもたちに伝える取り組み)をやってるじゃないですか。

 Bリーグには「秋田ノーザンハピネッツ」という人気チームがあるのですが、秋田県内の25市町村の小学校を訪問して、選手が授業をするということに取り組んでいます。そういう体験によって子供たちや親はチーム、選手を近くに感じるし、自分たちのそばにこういうチームがあるんだなと感じてもらえる。他のチームでいうと、仙台(89ERS)もゴミ減量の啓発パレードや、自転車の安全運転啓発キャンペーンといった地道なことをクラブがやっています。

 秋田では、今、1試合の観客入場者数が平均3000人くらいです。土、日のホームゲームでは6000人くらいの人が来るわけですよ。年間30試合ホームゲームをやるということは累計で10万人弱のお客さんが来ます。そんな行事は地方にないんですよね。月に2回、週末にお祭りが開かれているのと同じですよね。

 ノーザンハピネッツがないこと、栃木でいうと田臥(勇太)選手の「リンク栃木ブレックス」がいないことが想像できない世界になってくれば、クラブはもう公共財と一緒だと思います。例えば「鹿島アントラーズ」が東京に本拠地を移したいとか言ったら暴動になりますよ。かつて横浜フリューゲルスが横浜マリノスと合併すると言ったら大騒ぎになったわけです。ノーザンハピネッツやリンク栃木ブレックスはその域にきてると思いますよ。酒のさかなの話になったり、奥様たちの話題になったりしたら、しめたもんだと思いますけどね。

 そうなるとクラブの経営がしっかりせねばならないのですが、クラブをなくしたくないという思いの方が勝るわけです。例えばサッカーでいうと「大分トリニータ」です。県の知事や市長が潰したくないと言って、Jリーグが融資までしたわけですよ。Bリーグは過去の「負の遺産」があるので、アップアップしながら経営してるクラブがまだあるんですね。でも、今後何年かの間に、しっかりと経営基盤の整備をしていきたいと思います。

―― アリーナの所有者は自治体がほとんどだと思います。今後、クラブは地域に貢献できる活動を行ったり、地域の市民や企業に応援してもらったりしないと前進しません。アリーナの現状をどのように思われていますか?

大河 アリーナはまだ体育館ですね。例えば、初めて地方から出てきて、東京ドームの巨人戦でお客さんが入ってる空間を知った時、試合の内容以前に「すごいな」って思うじゃないですか。そんなアリーナがどこかあるかといえば、ほとんどないですからね。物を買ったり、食べたり飲んだりできる場所をしっかり提供できているかというと、ないわけではないですが、観る人のためにつくっているという感覚は全くないですよね。