クラブが「器」以上になることはあり得ない

―― Bリーグ構想の1つにB1(Bリーグ1部)のクラブが「5000人以上収容のホームアリーナを持つ」というものがあります。かなりハードルが高いと思うのですが。

川淵 ええ。相当ハードルは高いですよ(笑)。でも、プロのクラブが「器」以上になることはあり得ない。

 Jリーグをつくった時、1万5000人以上を収容できる、ナイター照明を持ったスタジアムを確保することがクラブの参加条件でした。なぜかといえば、試合の入場料金が1人当たり平均1000円、1万5000人入るとチケット売り上げが1500万円。これで年間20試合やったら、だいたい3億円の収入になります。そこにスポンサー収入を加えて、トータルで5億円ぐらいでなんとかプロクラブとして運営していけるかなと。

 バスケットボールは3000人収容のアリーナに3000人が入るということは、現状としてあり得ないわけです。入れ物(器)を大きくして、そこで8割入るとした場合、5000人収容なら4000人でしょ? それで年間30試合やって、観客は12万人です。1試合の入場料金が平均3000円で3億6000万円となります。これなら3億円の収入が可能です。いろいろと考慮すると、年間の収入が最低5億円あれば、選手に2000万〜3000万円の平均年俸を出しても大丈夫な試算なんです。

―― 川淵キャプテンの数字の強さは定評がありますが、サラリーキャップ(選手の年俸上限額)は。

川淵 今まではサラリーキャップがあって、NBLで1億5000万円、bjリーグでは6800万円でした。外国人選手がだいたい高給取りで、日本人は安月給だった(笑)。bjリーグには年俸が100万円以下という選手がいたので、それでプロと呼べるのかと。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)
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 片やNBLは外国人も質の高い選手を獲れるし、日本の代表クラスの選手が給料の高いNBLに行くのは当たり前ですよね。財政がどうなるか分からない、自転車操業しているリーグのクラブに行くわけがありません。

 自ずとNBLは強くなり、bjリーグには弱い選手しか行かなくなる。しかしbjリーグはプロとして成功しないといけないから、エンターテインメント性とか、子どもたちにバスケットを教えたりして、地域の人に愛されようとする努力はものすごくやりました。NBLはほとんど何もしていません。やっぱり企業へ「おんぶに抱っこ」だからです。この差はいかんとも埋め難かった…。

 Jリーグの時とは異なり、なぜチーム名に企業名を冠することを僕が認めたか。Jリーグと同様に企業名を出さないようにしてほしいとお願いすると、「企業としてのチームを持つ価値はないのでやめます」という会社が何社かあるのではないかと思ったからなんです。

 例えば、バスケットボールチームを持つアイシン精機や、トヨタ自動車、東芝、日立製作所、三菱電機の5社は大きな企業でしょ? これらがBリーグ参入をやめると給料の高いチームがなくなってしまう。日本代表選手の処遇に関わる問題です。いずれプロリーグが盛んになって、収入が増えたら給料が増えるかもしれませんが、とりあえず高い給料を払えるところがなくなったら、選手としてはバスケットボールをやめましょうということになりますよね。それは絶対に避けなくてはならない。リーグを継続していくためには「企業名を認め、プロのチームとして認める。しかし、クラブ経営を独立法人化しないと認めません」というところが最後まで折れなかったところです。