筆者は、3.11直後から、2つのことを行っている。1つは、曹洞宗修行僧としての被災した東北地方太平洋岸市町村の犠牲者に対する巡礼、もう1つは、福島第一原子力発電所(F1)の保有者である東京電力(東電)に対する物理学者・技術評論家としての聞き取り調査である。

 特に後者に対しては、この4年間に東京電力の記者会見や公表資料ではよく分からない点について、正式ルートを通じて電子メールで約200件の事実確認や質問を行った。きびしいやり取りが続いたが、その過程で発生した大きなテーマに対しては、さらに東電の東京本社や福島第二原子力発電所(F2)に赴いて、技術幹部から数回の聞き取り調査を行った。2013年4月にF2と柏崎刈羽原子力発電所の、2014年4月にF1の現場調査も行っている[1]。東電の報告書は、数十回、読み直した。

 上記のような東京電力とのやり取りの過程で、幾つか公表されていない事実も分かった。それらは、(1)F1、F2、柏崎刈羽原発の非常用ディーゼル設置場所[2]、(2)重要部位の配管寸法[3]、(3)非常用復水器(Isolation Condenser ; IC)配管の取り換え時期[4]、(4)圧力逃がし安全弁(SRV)の制御用圧縮空気圧[4]、(5)1-3号機使用済み燃料貯蔵ラック材質のカドミステンからカドミアルミへ変更[4]、(6)マニュアル作成と社員研修時におけるレクチャーのみで、苛酷炉心損傷事故対策として原子炉格納容器ベント系と淡水・海水注入系の設置の現場訓練を一度も行っていなかった、(7)技術系社員が安全系作動の動特性(原子炉圧力や重要部位温度などの時間変化)を知らなかった、(8)緊急時操作マニュアルが分かりにくい、などである。特に、(7)(8)は、深刻であるにもかかわらず、全事業者とも一向に改善していない(これらの問題は重要なため、追って深く考察する)。

 原発の安全対策は、3.11後においても、新規制基準(地震、津波、火山、竜巻、火災、航空機、多重冷却系、多重電源系、第二制御室、水素爆発対策、ベントフィルター、テロ対策など)の考え方(自然現象に対する対策では、過去に発生した最大規模のものを参考とし、余裕度を設ける)や内容などから判断し、抜本的な改善策が施されていないことが読み取れる。


参考文献
[1]東京電力,『福島第一原子力発電所東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について』,2011年9月.
[2]桜井,『福島第一原発事故を検証する』,日本評論,2011年.
[3]桜井,『福島原発事故の科学』,日本評論社,2012年4月.
[4]桜井,『日本「原子力ムラ」惨状記』,論創社,2014年9月.