これは、はからずも気候変動対応から要求される化石燃料の消費削減要求と同水準に相当する。このような石油生産能力の大幅な減少という重大な予測結果は、これまでWEOでは触れられてこなかっただけに、唐突に感じたWEO読者も少なくなかったのではなかろうか。
WEOでこそ明示してこなかったものの、IEAが2019年ころに世界の石油生産がピークを迎えるとした予測は、必ずしも唐突なものではない。欧州における関連報道をつぶさに追うと、IEAはそうした見解をかなり以前から持っていたことが推測できる。
例えば、2009年8月3日付け英インディペンデント紙で、当時、IEAチーフエコノミストだったファティ・ビロル氏(現IEA事務局長)は「2010年以降に需要は供給を上回り、オイル危機が発生する。10年後(2019年)には生産ピークを迎えるであろう」とインタビューで答えている。
「米国の圧力で歪曲されている」
にもかかわらず、この分野で最も影響力のある報告書であるWEOでなぜ、生産能力の減少をこれまで取り上げてこなかったのか。
「米国の圧力でWEOの主要な数字は歪曲されている、IEAの内部告発」という見出しが、英ガーディアン紙を飾ったのは2009年11月9日のことだ。
そのほか、2012年1月9日付け仏ル・モンド紙が「石油生産は2015~20年の間に減少し始めるであろう」という元IEA職員、オリバー・レッシュ氏の発言を取り上げている。レッシュ氏はWEOの石油将来シナリオ作成を担当していたが、“個人的理由”でIEAを辞職したと伝えられている。
以上のような報道から、IEAは10年ほど前から2019年ころに石油生産がピークを迎えるという認識を持っていながら、何らかの理由でWEOではあえて明記を避けていたようにも見える。2016年11月に発表されたWEO 2016では、さすがに間近に迫った生産ピークに目をつぶることはできなくなったということなのだろうか。
IEAのWEO 2016以外でも、石油生産が近い将来、減少に転じることを示唆する情報は数多くある。
2003年ころから旺盛な原油需要を見込んで、開発コストが高くつく深海油田などの開発が始まった。しかし、開発コストがこれまでに比べてかなり割高のため、石油会社の収益を圧迫した。図2に主要な石油会社の開発投資額と原油生産量の推移を示す。