協調減産延長も需給バランスは均衡せず

 こうして世界の「構造不安定化」は、ここ数年で一気に加速しているように見える。

 2017年後半に入り、原油価格に新たな下振れリスクが生じている。WTI原油価格は6月に入り、7カ月ぶりに1バレル45ドルを割り込んだ。OPECと非OPECは5月25日の閣僚級会議で、2018年3月まで9カ月間、日量180万バレルの協調減産(OPECが120万バレル、非OPECが60万バレル)の延長を決めたものの、期待された需給再均衡は難しいとの見方が広がったためだ。

 OPECは6月の月報(OMR)で、加盟13カ国の5月の原油生産量が前月比33.6万バレル増の日量3213.9万バレルになったと発表。年初来、協調減産を続けているなかで初めて前月比増産となった。これは、長らく内戦状態にあったことで協調減産を免除されているナイジェリアとリビアの増産が、サウジアラビアなどの減産分を相殺した格好だ。

カタール断交がもたらす新たな分断

 一方、6月に入って中東で新たなリスクが台頭している。

 1つは、治安は万全といわれたイランの首都テヘランで「ホームグローン」テロが発生したことだ。背後でサウジの関与も疑われている。

 さらに、サウジ、UAE、エジプト、イエメン、バーレーンのアラブ諸国は6月5日、イスラム過激派などテロリストを支援しているという理由で、カタールとの国交断絶に踏み切った。

 サウジ、UAEの各港では、カタール船籍の船舶入港を禁じた。カタールの原油生産量は日量60万バレル強であるが、LNG(液化天然ガス)の年間輸出能力は7700万トンを超え、世界最大である。

 日本はLNGの国内需要の20%強をカタールからの輸入に頼るなど、国内経済への影響も大きい。米トランプ政権は「アラブ諸国によるイラン包囲網」の構築を模索しているが、アラブ諸国内の亀裂はかえって「イラン・シリア・カタールの結束」を強める要素になりかねない。

 こうした中東での地政学リスクの高まりにも関わらず、これまでのところ原油市場への影響はみられない。