世界中で車両の電動化が盛り上がりを見せる。これは一過性の現象ではなく、必然と心得るべきだろう。「電池技術」「中国」「エネルギー政策」などのキーワードから、“EVの世界”を読み解く。
より多くの動力を使って、より多くの原料を運び、より多くの製品を生産・販売することで産業革命を達成した。資本主義の発展を支えてきたのが化石燃料と内燃機関だった。
このコラムでは、石油生産の経済性と環境問題の両面から石油の時代が限界を迎えつつあることを説いてきた。石油の枯渇と使用禁止のどちらが先かは別として、今世紀後半には石油の利用に大きな制約が生じるだろう。
そこで今回は、石油なき時代のモビリティについて考える。
石油の行き詰まりを技術が打開
カリフォルニア州政府が、2018年から自動車各社にZEV(ゼロエミッションビークル)の販売比率を年々高めるよう義務付けたことから、乗用車の電動化の流れが始まった。
一方、多くのディーゼル車メーカーは、2015年に露見した米国におけるフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正を機に、複雑かつ高コストの排気後処理装置を必要とするディーゼル車に見切りをつけつつある。
この方向転換は、従来の内燃機関車では、2050年までにCO2排出量の80%低減を目指すEUの目標を達成できないとの判断も背景にあるだろう。さらに英国とフランス政府が2040年にディーゼル車の販売を禁止すると発表して以来、世界の電動化の潮流は一層強まった。
2010年ごろから始まったEVとPHV(プラグインハイブリッド車)の販売台数は、2015年時点でそれぞれ73万台と52万台であり、地球温暖化の抑制を目指すパリ協定では、2030年までに両タイプ合わせて1億台の普及を期待している(*1)。これは世界の全自動車13億台の8%弱に相当する規模だ。
このような電動化の流れは、米国都市部の大気環境規制の強化と、欧州の地球温暖化抑制政策によるところが大きい。これに最近のIEAのレポートによって顕在化した将来の石油供給不足の懸念が加わる。
内燃機関に対する逆風に加え、バッテリー技術とIT、自動運転技術の進歩がEVを後押ししている。行き詰まりかけた資本主義が新たな利潤を生む技術革新を求めて電動化の流れを創り出していると見ることもできる。
総合的に見て、電動化は合理的な流れと捉えていいだろう(図1)。
ただし、電動化の進展は搭載バッテリーの性能向上と低コスト化にかかっており、その進捗具合を考慮すると本格普及は2030年以降と予想する向きもある(*2)。
現在のEV用バッテリーの主役であるリチウムイオン電池は、2008年から2015年までに、体積当たりの充電エネルギーは5倍に増加し、電気容量当たりの価格は4分の1に下がった(*1)。