もはや、世界が経済成長を続けるだけの石油エネルギーを供給する能力を地球は持ち合わせていない。当コラムはここまで、様々な角度から石油経済の限界が近づいていることを説いてきた。今回は、石油価格と経済成長の関係を検証する。

 人類が地中から石油を手に入れたのはわずか150年前のことだ。この「豊富で安価」なエネルギーを使えるようになって、人類はかつてない繁栄を享受してきた。

 だが、有限である石油資源を短期間で使い過ぎた。「豊富で安価」という石油の恩恵が陰りを見せ始めている。プラスチックや排ガスなど石油由来の廃棄物や汚染物質が地球環境を悪化させたという批判も拡大した。

 石油の限界という大きな課題を乗り越えていく方策を模索するためにも、ここで改めて石油と経済の関係についてまとめておきたい。

 グラフ1は世界の石油消費量と国民総生産(GDP)との関係である(2014年まで)。世界の成長は石油消費量に強く依存していることが分かる。

GDP増加は石油消費量に強く依存してきた
GDP増加は石油消費量に強く依存してきた
グラフ1●世界の石油消費量とGDP(出所:A couple of thoughts on the energy transitionおよび“Le Debat”September 2012から著者作成)
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成長を支配した石油消費量

 だが、世界経済を支えてきた、「豊富で安価」という石油エネルギーの最大の利点が揺らぎ始めているのはこれまで当コラムでお伝えしてきた通りだ。簡潔にまとめると次の通りである。

・2019年以降、世界の石油生産が減少する可能性を国際エネルギー機関(IEA)が示唆している(「採算性低下が原因で石油生産は減衰する」参照)。

・2000年以降、原油が供給する「正味」エネルギーは減り始め、2015年時点で「見かけ」より20%ほど低下している。この減少は見えにくい形で、近年の世界経済の停滞にも影響していると考えられる(「石油はこれから『正味エネルギー』が急減する」参照)。

・世界で生産増加が期待される油種は非在来型原油(カナダのオイルサンドと米国のシェールオイル)だけである。しかし、非在来型のエネルギー収支比は低く、採算性も悪い。このため、近い将来、非在来型原油の生産は減少する(「期待の新星、オイルサンドの失速が始まった」「シェール革命は短命に終わる」参照)。

 グラフ1と上記の要点に基づけば、供給される石油エネルギー量の観点から、経済は既に衰退し始めているといえる。

 グラフ1は、大きな傾向としてGDPは石油消費量に支配されていることを示している。しかし、詳細にみると、1980年および2008年に不連続の変化が見られる。これらは石油危機(価格急騰)が発生した時期である。量だけでなく、価格も経済に影響を与える。