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スポーツとイノベーション

出発点は「地域の魅力」 スポーツありきでは成功せず

「KEIO Sports X」報告(6)

2016/12/06 00:00

久我 智也

 スポーツは本当に地方創生に役立っているのか――。近年、地方創生のためのスポーツイベントが増えているが、実際はどうなのか。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)が主催したスポーツ産業カンファレンス「KEIO Sports X」(2016年10月11日)でのパネルディスカッション「スポーツ×地方創生 ~白馬国際トレイルラン/東北風土マラソン/ツール・ド・東北の事例から~」は、これを考える絶好の機会となった。同ディスカッションの後編をお伝えする。

「スポーツ×地方創生」をテーマにしたパネルディスカッションには、スポーツや地域活性化に興味関心を持つ多くの人々が集まった
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スポーツにあって音楽にはないもの

 白馬国際トレイルラン、東北風土マラソン、ツール・ド・東北は、ともに歴史の浅い大会でありながら、民間主導で高い経済効果を出しており、参加者、地元の人々からの人気も高い。しかし、地域活性化のためのイベントとしては、音楽フェスなどの他の選択肢もある。その中で、なぜスポーツだったのか。

 2016年、石巻市で「Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016(以下、ap bank fes)」という、音楽とアート、食などを掛け合わせた復興イベントに共催したヤフー コーポレート統括本部プロデューサー/東北共創チームリーダーの須永浩一氏(ツール・ド・東北のプロジェクトマネージャー/大会事務局長)は、音楽フェスとスポーツイベントの違いを次のように語った。

 「ap bank fesは、(Mr.Childrenの)櫻井和寿さんという日本を代表する人物をはじめとした多くのアーティストが参加し、2日間の開催で4万人近くの観客を集めました。一方、ツール・ド・東北の参加者は約4000人。この数の違いを見ると、やはり音楽の力はすごいものがあると感じています。ただ、音楽フェスの場合はアーティストとオーディエンスという二者の関係で完結するものですが、スポーツの場合、参加者だけでなくそれを応援する地元の人々、さらに我々スタッフやボランティアの人々すべてが関わることで大会を作ることになります。スポーツの方が、より多様な関わり方ができるものだと感じました」(須永氏)

 東北風土マラソンの実行委員でラストワンマイル 代表取締役の田中直史氏、白馬国際トレイルランの発起人であるユーフォリア 共同代表取締役の宮田誠氏も、須永氏同様の考えを述べる。

 「スポーツの大会を運営するのは本当に大変なことで、特に現場に近い人間には大きな負担を掛けることになります。ただ、スポーツは実際に体験をするもので、その体験を通じてコミュニケーションが活性化する。そこは音楽フェスとは違う有用性があるのかなと感じています」(田中氏)

 「僕は他のスポーツ大会も運営しているのですが、地元の人にも大きな負担を強いることになるので、いつも“スポーツじゃなくてもいいんじゃないだろうか”と自問自答しています。ただ、大会が終わった後の開放感や、スタッフのチームビルディング感はすごいものがあるんです」(宮田氏)

白馬国際トレイルランは白馬村の地域活性化を目的に、東北風土マラソン、ツール・ド・東北は東日本大震災からの復興を目的に開催されている
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 “お客さん”である外部の人々だけではなく、地元の人々も参加して作り上げ、地域コミュニティのつながりを強くするという意味では、音楽フェスなど、ある意味一方通行的なイベントにはないものが、スポーツにはあるというのだ。

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