国内を含め、世界的にプロスポーツの試合の放映権・配信権の高騰が叫ばれる中、高校・大学の学生スポーツの試合の無料配信などでビジネスを拡大しているベンチャー企業がある。ネットのスポーツメディア「SPORTS BULL(スポーツブル)」を運営する運動通信社だ。

 同社は今夏、朝日新聞社と朝日放送テレビが提供する「バーチャル高校野球」と連携し、「第100回全国高校野球選手権記念大会」地方大会の約700試合と、本大会全試合をライブで配信した。さらに、高校生のスポーツの祭典である「インターハイ」については、全国高等学校体育連盟公式サイト「インハイ.tv」と連携して全30競技のライブ配信を実施。大学スポーツについても、東京六大学野球連盟の公認のもと、東京六大学野球春季・秋季リーグ戦の全試合を「BIG6.TV」としてライブ中継している。

 「甲子園」のようなメジャーな大会はともかく、視聴者数が限定されるアマスポーツの無料配信でどのように事業を拡大していく戦略なのか。元電通マンの、代表取締役社長・黒飛功二朗氏に聞いた。(聞き手:内田 泰=日経 xTECH)

高校生のスポーツの祭典である「インターハイ」全30競技をライブ配信する「インハイ.tv」の概要と画面例(右)
高校生のスポーツの祭典である「インターハイ」全30競技をライブ配信する「インハイ.tv」の概要と画面例(右)
(図:運動通信社)
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 SPORTS BULLでは、学生スポーツなどのライブ配信に精力的に取り組まれていますが、アマスポーツのビジネスのポテンシャルをどう見ていますか。

黒飛 非常に大きいと考えています。プロスポーツの試合のライブ配信は数年前からビジネスが過熱しており、既にレッドオーシャン(血で血を洗う競争の激しい領域)と見ている人が多いですが、私の中ではスポーツのネット配信ビジネスは「完全なブルーオーシャン」です。

運動通信社 代表取締役社長の黒飛功二朗氏
運動通信社 代表取締役社長の黒飛功二朗氏

 学生スポーツの中で最も注目を集め、ライブ配信にいち早く取り組んでいる高校野球でも、夏の大会は予選を含む約4000試合のうち、現在配信できているのは約750試合です。他のアマスポーツの大会の映像がどれだけ視聴者に届いているかというと、私の感覚では全体の5~10%しかありません。アマスポーツの裾野は広く、試合を観たいと思った人が、誰でもすぐに観られるようにすることが重要だと考えています。だから、無料配信にこだわっています。

 SPORTS BULLは「オールスポーツのプラットフォーム」という立ち位置を取っています。コンテンツの権利は主催側に置いた状態で、我々はプラットフォームという立場で各社とプロジェクトチームを組んで連携しています。ここは、このビジネスの健全な発展に重要な部分です。例えば、全国高校野球選手権大会の地方大会はローカル局の試合映像を配信させて頂いています。弊社は朝日新聞、朝日放送テレビとタッグを組んで各ローカル局と協創し、「バーチャル高校野球@SPORTS BULL」という形でライブ配信をしています。

 アマスポーツでも「甲子園」や「東京六大学野球」などは多くの人が観戦すると思いますが、高校野球の予選大会やマイナースポーツはどのような人が観ているのでしょうか。

黒飛 学生スポーツは、例え予選大会でも「自分の子供や親せきが出ている」「母校が出ている」など“濃い”モーチベーションを持った人たちが必ずいます。こうした人たちのモーチベーションは試合内容の優劣だけにありません。まだ我々は一部しか配信できていませんが、試合の数だけ観る人のモーチベーションがあり、そこでの熱量は人気プロスポーツを上回るものがあったりします。