スポーツクラブの経営は、放送権料やスポンサー収入、そしてファンからの収益によって成り立っている。こうした収益を持続的に獲得していくためには、クラブ自身が相応のブランドを確立させていなくてはならない。どのような思考でクラブ経営に取り組めばそれが実現するのか。「スポーツビジネス産業展」(主催:リードエグジビションジャパン、2018年2月21日〜23日)に、イタリアサッカーリーグ・セリエAのインテル・ミラノ(以下、インテル)の最高販売責任者ミカエル・ギャンドリー氏が登壇し、同クラブのブランディングとファンの満足度向上のための戦略を語った。その要旨をレポートする。

“レガシー”と“リアリティ”がブランド構築に重要

 スポーツに限らずあらゆるビジネスで「ブランド」は重要なものとして扱われるが、一朝一夕に構築できるものではない。100年以上の歴史を持ち、イタリアのみならず世界中に多くのファンを持つインテル・ミラノは、ブランドに対してどのような思いを持っているのか。ミカエル氏は「ブランドはすべての発想のコアになるもの」と定義した上で、ブランドの構築方法について次のように語った。

インテル・ミラノのミカエル・ギャンドリー氏。最高販売責任者としてスポンサー契約、広報、チケットやグッズ販売、ライセンス事業、海外試合、選手育成のためのインテル・アカデミーなど、インテル・ミラノの商業事業全体を統括している
インテル・ミラノのミカエル・ギャンドリー氏。最高販売責任者としてスポンサー契約、広報、チケットやグッズ販売、ライセンス事業、海外試合、選手育成のためのインテル・アカデミーなど、インテル・ミラノの商業事業全体を統括している
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 「ブランド構築における重要キーワードは2つあります。まずは“レガシー”です。誰が、どのような理念とビジョンを持ってこのブランドをつくったのか。インテルの場合、多様さを重んじて団結していくという思いの下、クラブの歴史がスタートしました」

 インテルはもともと、同じミラノに本拠地を構えるACミランと同じチームであった。しかし1908年、外国人選手の加入を巡ってクラブ内が対立した際に、外国人選手の受け入れに賛成するメンバーが前身のチームから独立し、多様性を重んじることを理念にしたインテルを創設したという歴史を持つ。このような背景にある理念が、ブランド構築の1つの鍵になるというのだ。ミカエル氏は続ける。

 「もう1つ大切なものは“リアリティ”です。現状で何が起きているのか、私たちは何者になり得ているのか。インテルはこれまでの歴史の中で多くのタイトルを獲得してきましたが、その一方で負けることも多くありました。しかし、ビジネスというものは勝とうが負けようが続いていくものです。ですから、どのような状況にあっても満足することなく、常に高い目標を設定し、将来のゴールに向かっていくことが必要だと思っています。そうした思いが、私たちをユニークな存在にしているのだと考えています」

「公平さ」がブランド力を保つ

 スポーツクラブは、勝ち負けを超えたところでファンから愛され、スポンサーからの支持を集めるようにならなくてはならない。そのためには何が必要となるのか。ミカエル氏は「公平さ」を1つの要に挙げる。

 「勝つことは非常に大事ですから、我々は常に勝利に向かってベストな姿勢で臨んでいます。しかし、勝とうが負けようが、正しいことをするという姿勢を忘れてはなりません。常に公平で、正しいメンタリティで行動することが企業のブランドを保つために重要になるのです」

 またスポーツクラブの場合、プレイヤーの存在もブランド力のアピールにつながるものである。だが一方で、プレイヤーがそのクラブに居続けるという保証はない。このことについてミカエル氏は次のように話した。

 「プレイヤーはクラブを代表する存在です。ファンからのエンゲージメントのレベルを高めるために、プレイヤーとの交流イベントなどを実施することも重要でしょう。もちろんプレイヤーに移籍はつきものです。しかし特定のプレイヤーがいなくなったからといって、そのエンゲージメントレベルは変わるかもしれませんが、ファンがいなくなるわけではありません」

 勝ち負けや、どんな選手が在籍しているかということはブランド力維持のために重要なことであるものの、真の意味で支持を獲得し続けるためには、そうしたことに左右されないクラブ経営が大切になるというのである。