目指すは「レガシー」の構築

 NEC、NTT、そして富士通が今、注力しているのは東京五輪・パラリンピックの中でも「レガシー」と呼ばれる分野でのプロジェクトの推進だ。レガシーは東京五輪・パラリンピック大会の運営そのものではなく、東京五輪・パラリンピックの開催をきっかけに行われる街づくりや、外国人観光客向けの環境の整備など、将来にわたって残る「遺産(レガシー)」を指す。

 レガシーの代表的な分野が安心・安全、街づくり、スポーツの魅力の向上だ。日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所・東京商工会議所、経済同友会など産業界の代表者で構成するオリンピック・パラリンピック等経済界協議会は、(1)安心・安全、(2)環境、(3)ユニバーサル社会、(4)スポーツ・エンターテイメント、(5)元気な魅力ある地方、の5分野を東京五輪・パラリンピックが関連するレガシーの代表的な分野としている。

 その中でITの活用が期待される分野の例として挙がっているのが、(2)環境、を除いた四つの領域だ。例えば、(1)安心・安全では「危険因子のセンシングや人流分析技術などを用いた犯罪や異変の早期発見」、(3)ユニバーサル社会では「ウエアラブルや据え置き型、メガホン型の翻訳端末などを利用した訪日外国人のための多言語対応システム」などをテーマとして挙げている。

図●東京オリンピック・パラリンピックの開催でITの活用が期待されるレガシーの代表的な分野
図●東京オリンピック・パラリンピックの開催でITの活用が期待されるレガシーの代表的な分野
オリンピック・パラリンピック等経済界協議会のパンフレット「ハードレガシー(科学技術・イノベーション編)2016年5月版」を基に本誌作成
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 東京五輪・パラリンピックの基本方針としては、レガシーの整備やICTの活用が注力分野の一つになっている。

 2015年11月に閣議決定された「2020 年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」では、1964年の東京五輪で新幹線や高速道路が整備されたことを例に挙げ、「有益な遺産(レガシー)の創出」を目的の一つとして挙げている。

 基本方針の中の一つとして上がっているのが「日本の技術力の発信」だ。「日本が世界中の注目を集め、多くの外国人が訪日する機会となる大会を、強い経済の実現に向けたイノベーションの牽引役と捉え、大会を通じて日本の強みである技術をショーケース化し、世界に発信する」としている。

「最先端技術の活用」の経済効果は9兆円

 東京都が試算した東京五輪・パラリンピックの経済効果の32兆円という金額は、全国を対象に大会運営そのものから発生する直接的な効果に加えて、レガシーの効果も含んだものだ。内訳は直接的な効果が5兆2000億円、レガシーの効果が27兆1000億円と、レガシー効果が5倍以上大きい。