2019年4月9日、東南アジアのミャンマー最大の都市ヤンゴンで、日本のスポーツビジネス界では“前代未聞”とも言える記者会見が開催された。スポーツXという日本企業が、ミャンマーのプロリーグであるミャンマーナショナルリーグ(MNL)と、国内の選手育成と代表チームの強化を目指す「ミャンマージャパンフットボールディベロップメント」という合弁会社を設立したというのだ。日本の一企業と人口5000万人以上の国のサッカー連盟(協会)やプロリーグがこのような合弁会社を設立するのは極めて稀だ。具体的には、スポーツXと資本業務提携をし、国内外に1万4000人以上の受講生を抱えるスクールパートナーという会社が培ったノウハウを、ミャンマー国内の3歳から12歳までの少年少女に提供していく。当日の会見にはメディアの数だけで約20社が集まり、ミャンマー国内での注目度の高さを伺わせた。
スポーツXがどのような企業かはあまり知られていないが、2017年10月に設立され、将来のJリーグ入りを目指す「おこしやす京都AC」の親会社でもある。同クラブの社長は、東京大学出身の元Jリーガー・添田隆司氏で、2018年に25歳の若さで就任して話題になった。このように日本のスポーツ界に変革の波を起こしているスポーツXを率いるのが、ミャンマージャパンフットボールディベロップメントのPresident & CEOも務める小山淳氏だ。スポーツXは何を目指しているのか。小山氏のインタビューを前後編に分けてお届けする。(聞き手:上野直彦=スポーツジャーナリスト、久我智也)
世界でも類を見ない「クラブ経営をフルパッケージで提供する」企業
まずはスポーツXがどのような会社なのか、簡単に教えていただけますか。
小山 我々は「咲かせようスマイルつなげようスポーツで」という経営理念の下、「プロスポーツクラブ多店舗展開」「経営支援事業」「投資事業」「人材開発事業」という4つの事業に主に取り組んでいる企業です。それぞれの事業については後ほど詳しく説明していきますが、多数のプロスポーツクラブの経営に携わり、経営力でチームを勝たせる強化体制を構築したり、プロスポーツクラブの経営人材や指導者の育成、あるいはスマートスタジアムの開発事業などを行ったりしています。
この領域に関する主な実績としては、2009年に創設して5年間でJリーグ入りを果たしたJ3の藤枝MYFC(現在は地元企業に経営権を譲渡している)や、当社の社員でもある添田隆司が代表取締役社長を務めているおこしやす京都ACなどの事例を挙げることができます。
また投資事業も積極的に展開していて、例えばスクールパートナーという、国内外合わせて1万4000人以上の子どもが通うキッズスポーツスクールの運営などにも携わっています。
世界でもなかなか類を見ない事業領域ですね。
小山 ええ。子ども向けのスクールからトップチーム、さらにはスタジアムまでフルパッケージ的に携わっている企業というのは世界にもないと思います。
10歳で「JFA会長」を目指す
小山さんは、なぜスポーツXという会社を設立し、このようなビジネスに取り組んでいるのでしょうか。
小山 私は1976年に静岡県藤枝市というサッカーが盛んな街で生まれ、自分自身も幼い頃から自然とサッカーに親しんでいました。当時の日本のサッカーと言えばトッププレイヤーでも茶色い芝生の上でプレーするのが当たり前でしたが、私が10歳の頃、1986年に開催されたFIFAワールドカップメキシコ大会をテレビで見て、とても美しい緑色の芝生の上でプレーする選手たちを見て強い衝撃を受けたんです。
それは感動だけではなく、日本と世界の違いに初めて触れたからこその悔しさもありました。そこで両親に「僕は将来日本サッカー協会(JFA)の会長になって、日本のサッカーを世界一にする」と言ったんです。
「日本代表になってワールドカップでプレーする」ではなく「JFA会長になる」というのはユニークですね(笑)。
小山 活字中毒の父の影響で幼い頃から戦国武将の書籍を読んで育ったので、「JFA会長になって天下統一したい」という思いもあったんですね(笑)。そこでJFA会長になることを将来の目標にすることが決まったので、目的地から逆算して自分がどう生きていけばいいか、ロードマップを敷いていきました。