ソフトバンクは顧客獲得に苦労

 NTTドコモにとっていいことずくめに映る今回の提携だが、課題もある。DAZNが提供するアプリのレビューをGoogle Playで見ると、「アプリが落ちる」や「操作性が悪い」、「映像が途中で切れる」などと評価は散々である。DAZNのジェームズ・ラシュトンCEO(最高経営責任者)は「原因はデバイスの問題だったり、我々の開発の問題だったりする。早急に改善していく」とするが、例えばJリーグの開幕は2月25日に迫り、改善に遅れが生じれば悪評ばかりが広がり、致命的な機会損失となることも考えられる。

 NTTドコモの吉澤社長は「早期に100万件」の目標を掲げたが、顧客の獲得も意外に苦戦する可能性がある。パフォーム・グループは、NTTドコモがdTVで463万件と驚異的な会員数を獲得している実績を評価したのだろう。確かにdTVと同様、全国に約2400店舗あるドコモショップで一斉に勧誘すれば、すぐに目標を達成できても不思議ではない。

写真●スポナビライブの画面(出所:ソフトバンク、(c)SoftBank HAWKS)。
写真●スポナビライブの画面(出所:ソフトバンク、(c)SoftBank HAWKS)。
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 だが、ハードルの高さを予感させる先例がある。ソフトバンクのスポナビライブだ。サービスの開始後にガンガン売り込んだが、「会員を獲得しても7割程度が1カ月でやめていった」(同社幹部)。スポナビライブはプロ野球のライブ配信に強く、選手データを含め、統計情報も確認できるとプロ野球ファンの評判が高かったにもかかわらずだ。「スポーツに関心がない顧客を無理に勧誘してもあまり意味がなく、丁寧な獲得に切り替えた。この結果、最近では会員数がじわじわと伸び、解約率が1割を切り始めた」(同)経緯がある。

 さらに映像配信サービスはテレビやゲームを含め、ユーザーの可処分時間の奪い合いであることも忘れてはならない。dTVをはじめとする同社サービスと“食い合い”になることも十分に考えられる。コンテンツがいくら豊富でも、視聴時間を割けないユーザーはやがて離脱していく。短尺のダイジェストや企画番組などの提供を通じ、スポーツ映像の視聴をいかに習慣化できるかがカギを握る。

 あとはファンをいかに広められるか。例えばソフトバンクは、ソーシャルサービスとの連携機能を強化して視聴のエンターテインメント性を高めることを検討している。「LINE LIVEとのコラボで一部映像を無料で配信する取り組みを進めており、試合を観戦しながら視聴者同士がつぶやき合う仕組みが好評を得ている。ソーシャル連動で皆が盛り上がれる世界を作り上げていく。プロ野球のシーズン開始前には間に合わせたい」(幹部)とする。

 最終的には、それこそNTTドコモの吉澤社長が標榜する「いつでも、どこでも、何度でも」楽しむような状況を作り出せれば大成功である。パケット通信量の増加や光回線の拡販といった相乗効果も見えてくる。

 もっとも、NTTグループやソフトバンクは映像配信に限らず、ICTの利活用でスポーツ産業の発展にいかに貢献していくかという観点で動いている。スマートフォンのカメラで選手をとらえると関連情報をAR(拡張現実)で表示したり、多地点カメラなどを駆使してVR(仮想現実)で臨場感を味わえるようにしたりする取り組みが進む。後者の映像は個々の選手やチーム向けの分析ソリューションにも応用できる。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、総合力勝負の様相を呈している。