日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第12回:可変バルブリフト機構 ポンピングロスと、吸排気効率を自在に操る」の転載記事となります。

 カム山を切り替えて使うタイプの可変バルブタイミング機構では、バルブタイミングの変更に合わせてリフト量も変えたカム形状を備える。例えば、「出力追求型カム」と「燃費追求型カム」を切り替え、これに伴ってバルブリフト量も変化する。この場合、リフト量は2段階に限定されるためスロットルバルブの代替え手段とはならない。それでも、エンジンの負荷状態や回転数によりリフト量を切り替えることは吸気効率を高めるためには有効な手段である。

 こうしたカム山切り替え型の可変バルブリフト機構には、ホンダの「VTEC」やドイツPorsche社の「VarioCam Plus」、同Audi社の「AVS」、富士重工業の「i-AVLS」などがある。VarioCam Plusとi-AVLSはドイツSchaeffler社の「スイッチングタペット」を利用したもので、機構は同じ。

 ホンダのVTECは性格の異なる2種類のカムを搭載する可変バルブタイミング機構である(図3)。それを進化させたのが「i-VTEC」で、「低回転用カム」と「高回転用カム」の切り替えに、カムスプロケット位相による可変バルブタイミング機構を追加したもの。低負荷時と高負荷時のカムプロフィールの切り替えとバルブタイミングを最適化する。これにより、運転状態に応じてバルブのリフト量と開度を適切に調整できるようにしている。

図3 ホンダ「VTEC」によるカム山切り替えの効果
図3 ホンダ「VTEC」によるカム山切り替えの効果
(a)低回転用と高回転用のロッカーアームの間には油圧で作動するピンがあり、ピンの抜き差しによってカムの作動を切り替える。(b)低回転用カムは慣性過給が小さいので、吸気バルブが開いている時間が短く、リフト量は少なめだ。高回転用カムはバルブ開度が前後に大きくリフト量も大きい。
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 Porsche社のVarioCam Plusは、カム山切り替えに加えて、カムスプロケット位相による可変バルブタイミング機構を組み合わせている(図4)。タペットを二重構造として、油圧によりピンを出し入れすることで外側のタペットを固定とフリーに切り替える。

図4 カム山切り替え型の例(Porsche社の「VarioCam Plus」)
図4 カム山切り替え型の例(Porsche社の「VarioCam Plus」)
Schaeffler社が提供するスイッチングタペットを組み込むことで、カム山の切り替えを実現している。
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