日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第3回:マルチリンクサスペンション 乗り心地と高速走行時の操縦安定性を高次元で両立」の転載記事となります。

 マルチリンクと一口に言っても、実際には自動車メーカーによって様々な構造がある。特許事情によるものもあるし、自動車メーカーによって最適と考えるサスペンションの仕様があるからだ。

 それでも多くのサスペンションを見比べてみると、ダブルウイッシュボーンやセミトレーリングアーム、ストラットなど従来のサスペンション形式を発展させてマルチリンク化したものと、最初からマルチリンクとして設計開発されたものに大別できる(表2)。

表2 マルチリンクサスペンションの比較
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 ダブルウイッシュボーンの発展型であるのは、ドイツDaimler社「Mercedes-Benz」ブランドの「Sクラス」やドイツAudi社で使われているフロントサスペンションである(図3)。

図3 ドイツAudi社のマルチリンクサスペンション(フロント)
(a)Audi社のシステム。(b)構造が似ているトヨタのダブルウイッシュボーン式。トヨタとの違いは直進時にロアーアームのブッシュのたわみを生かしてタイヤを後方に移動させて衝撃を吸収しながら、ロアーリンクが平行にたわむことでトー角の変化を抑える点と、転舵時の軸となるポイントが実際のリンクの支点よりも外側になることで走行中の操舵が安定することだ。
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 フロントサスペンションは上下動による衝撃吸収や路面追従性だけでなく、操舵という役割もあり、マルチリンク化は設計の自由度を広げるための手段として用いられる。従来のサスペンションではステアリングの安定感や乗り心地、操縦安定性といった要素をバランスさせるために妥協していく部分が多いが、マルチリンクサスでは相反するような条件を高次元で両立させることができる。