ホンダのVTECは、可変バルブタイミング機構の草分け的存在である(図8)。その歴史は1980年代半ばに実用化した、スイングアーム式ロッカーアームの連結状態を切り替えることにより、吸気バルブの片側を休止させて低速トルクを向上させる機構「REV」に端を発する。そこから働きを逆転させ、4バルブ駆動のまま、回転数や負荷により低回転用と高回転用のカムを切り替えるものとしたのだ。
性格の異なる2種類のカムを搭載するため、バルブタイミングだけでなく、バルブリフト量、バルブ作動角(カム作用角)も変化させられる。
ただし現在の可変バルブタイミング機構が実現している一般的な無段階式のきめ細かい制御と異なり、カム自体を切り替えるためトルク特性には変曲点が現れることになり、どちらのカムもある領域の回転数において最適化されたものを組み合わせて全体をカバーすることになる。
その後、バルブ休止の機構を盛り込んで気筒休止の機能を実現したり、燃焼室内のスワール(横渦)発生に利用するなど様々な機能に進化している。
しかし吸気バルブの遅閉じなどアトキンソンサイクルの実現には専用のカムを使うと過渡特性に問題があり、冷間時の排ガス制御に利用することも難しい。そのため現在はカム位相型の可変バルブタイミング機構と組み合わせることで、カムの切り替えと位相の2要素によってバルブタイミングとバルブリフトの最適化を図れる「i-VTEC」へと発展した。これにより一層の省燃費と高性能を実現できる可変バルブ駆動システムとなっている。
Porsche社「Variocam Plus」やAudi社「AVS」もカムを切り替えるという点で、VTECに近い考え方の可変バルブタイミング・リフト機構といえる(図9、10)。