ICTなどを活用して、具体的にはどのような働き方改革の仕組みを実現できるか。一つは、多職種間でやりとりされる書類のペーパーレス化です。医療現場では書類作業の負担がかなり大きいです。そこで我々の組織では、その負担をなるべく小さくするような業務分担を導入しています。組織のオペレーションを考える中で、一形態としてペーパーレス化を進めることは十分に考えられると思います。

医療法人社団鉄祐会 理事長の武藤氏(写真:加藤 康、以下同) 
医療法人社団鉄祐会 理事長の武藤氏(写真:加藤 康、以下同) 
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 もう一つは、職種ごとの業務分担をある程度明確にしていくことです。ただし、その境界をあまり厳密にしてしまうと、「これは私の仕事じゃない」という押し付け合いが起こりかねません。職種間の協力関係を保ちながら、業務の重複を減らしていく工夫が大切だと思います。

 このような業務の見える化やタスクシェアリングにおいて、ICTは確かに有用だと感じています。その一方で、副作用にも目を向けるべきではないでしょうか。

 「○○病院はICTでこんな仕組みを実現した」。こうした先進的な事例ではICTの良い面が強調されがちですが、本当に良いことばかりなのか。むしろ「我々の現場の実態とは違う」と感じる人のほうが多いのではないかと思うのです。ICTの効果を最大化しようとすれば、どうしても副作用が伴う。両者をセットで考えないと、現場の実態に即した議論はできないと感じます。

 考えられる副作用は、3つほどあります。第1はコストです。ICTで先進的な仕組みを構築するのはいいけれども、果たして病院経営に与える影響はどうか。ICTを導入するとただちに経営改善にもつながると考えがちですが、必ずしもそうではありません。コストに跳ね返る面もあります。

 第2は、タスクシェアリングを進めるに当たって、タスクを「受け取る側」の問題です。タスクシェアリングやワークシフトといえば言葉は美しいですが、仕事を受け取る側に抵抗感があってなかなか事が進まない、という現実もあるのではないでしょうか。医師から仕事を受け渡される側、つまり看護師や薬剤師から見れば、「押しつけないで」という話にもなりかねないわけです。