SAPでのベル氏の職場もシリコンバレーだった。SAPの本社はドイツにあるが、シリコンバレーの中心地、パロアルトにも大きな開発拠点を構えていた。

 当時SAPも、事業の中心を従来のERPからCRMやビジネス・インテリジェンス(BI)などに広げようとしていた。ピープルソフトから移籍したベル氏は、SAPでは新製品の戦略立案担当バイスプレジデントに就任し、様々な業務ソフトウエアを開発する基盤となる「プラットフォーム」製品の立ち上げなどを担当した。

 その後ベル氏は2010年に米サービスソースインターナショナルという新興CRM会社に転じ、製品開発の責任者である「チーフ・プロダクト・オフィサー」に就任する。同社のオフィスはサンフランシスコにあり、ベル氏の在籍中に同社はNASDAQ市場への上場を果たした。そして2014年、ベル氏はGEからヘッドハンティングされた。

 こうした経歴から分かるように、ベル氏は製造業とは縁もゆかりもない、シリコンバレーのソフトウエア会社のプロダクトマネジャーだった。そんなベル氏がCDOを務めているのが、今のGEの姿なのである。

シリコンバレーの友達にも驚かれた

 もっとも2014年当時を振り返ると、「シリコンバレーで働く私の友人たちは、私がGEに転職したことに驚いた」(ベル氏)という。シリコンバレーのソフトウエア開発者は、テクノロジー業界(日本で言うところのIT業界)の中だけでキャリアを積み重ねていくもので、GEのような製造業に転職することはあり得ない、と考えられていたからだ。

 しかしベル氏本人は、「GEからヘッドハンティングのオファーが来たことには驚かなかった」と語る。むしろ「来るべきものが来た」(ベル氏)と感じたほどだったという。

 なぜなら2012年ごろから、米フォード・モーターや独BMWグループといった自動車メーカーがシリコンバレーに相次ぎ拠点を設け、この地で働くソフトウエア開発者などを採用するケースが急増していたからだ。実際にベル氏の下にも、自動車メーカーからのオファーが届いており、「製造業がソフトウエア開発者をシリコンバレーで集め始めていることを肌で感じていた」(ベル氏)。